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BESTOWERS
【ファンタジー 官能小説】

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I am Providence U-2

 エステルは自らの軽率さを悔やんだ。彼女にとって自らの失敗を自分自身で認めることはまだまだ難しいことだったが、その彼女ですら自分が致命的なミスを犯したことを認めねばならぬことだった。手には列島で一般的な刀剣であるスパタが握られており、その柄は彼女自身が流す手汗と、鮮血にまみれていた。周囲には人、人、人。およそ20人ほどの男達が彼女を中心に円を描くように囲んでいる。

 だが、その全ては無残な傷跡を残し、呼吸を忘れた人形と化している。この場に生きる人間はエステルだけであった。

「……しくじった」

 そう、彼女だけだ。ベラとミドルード城を丁度線で結んだ反対側の森で城を見張っていたエステルは、突如夜盗の集団に襲われた。彼女からすれば簡単な相手だったが、気がつけばそこには死体しかなく、尋問をするべき夜盗が残っていなかったのだ。エステルの頬を汗が流れていく。脳裏に浮かぶのは、笑いながら笑っていないベラの姿だった。

 だからこそ彼女は、小柄な体躯をさらに小さくして夜盗の死体をまさぐり、なにか手がかりがないか調べているのだった。だが、成果が上がっているとは言い難い。出てくるのは口に含むものとは思えぬ謎の保存食、珍妙なお守り、用途不明の人形だ。エステルは遂にあきらめ、その用途不明の人形を持って立ち上がる。

「わからん」

 お姫様の姿を模した人形ではあるが、手も足も無い。豪奢なドレスに手も足も隠れているのだ。簡略化された顔は笑いの形を作っているが、あまりにも粗末すぎる。全体的に雑な作りだが、その金髪の頭だけはやけに丸みを帯びているのが疑問だ。エステルはこれを夜盗が持っている意味を理解できず、思考を放棄してそれを森に投げ捨てた。

 ちなみにそれは「張り型」というものなのだが、エステルはその用途を知る由もない。

「ああ、局長とベラに殺される……きっと私は帰ってから一本一本指の逆むけを剥がされる拷問を受けるんだわ……」

 彼女がその身に待つ低レベルな拷問に身を震わせているとき、森の奥から微かな声がした。それはともすれば森の静寂、虫の奏でる音楽や鳥の叫びに消されるほどの大きさだったが、確実にエステルの耳に入ってきた。

 エステルは膝をついて神に許しを乞う体勢から立ち上がると、その方向に向き直った。

 足音だ。それも、二人。エステルは尼僧服の裾にしまったスパタをゆっくりと取り出すと、油断無く構える。

「とんだお転婆だな、野蛮人らしいじゃないか?」

 現れたのは、闇に溶けるような黒髪に、褐色の肌を持つ男だった。列島には存在しない褐色の肌は、大陸系の特徴である。

男は血まみれの死体を見て鼻を軽く鳴らし、自らの足元のそれを踏みつける。その顔には紛れもない侮蔑の色が籠っていた。

「女一人始末できないとは、劣等種の男は出来が悪い」

 そう言うと、褐色の男は死体を蹴り上げだ。死体は軽々と空に浮かび上がり、近くの木に激突し血を撒き散らした。蹴り上げた男は細見だが、その脚力は常人のものとは考えられぬものだった。エステルはゆっくり腰を落として、いつでも動ける準備を取る。

「『魔族』ですね、貴方方は」

 問いかけに、二人の男の雰囲気が一変する。それぞれ目には溢れんばかりの憎悪を燃やしていた。

「『魔族』? この高貴なる身を魔族と呼んだか劣等種!」

 短い黒髪を振り回し、敵意を剥き出しにする男らに、エステルは怯む様子はない。その様子を見てさらに激昂した男は、腰に帯びた偃月刀を抜き放つ。

「ボルジア当主暗殺は貴方たちの仕業ですか」

「答える義務は無い」

 偃月刀を抜き放ったのは男一人だけだ。もう一人の魔族は、後ろでその様を傍観している。一騎打ちということらしい。エステルにとっては好都合だ。

「では、無理矢理にでも聞きださせてもらうわ」

 口調を一転普段のものに戻し、エステルは男を強くにらむ。目前の少女が戦うつもりだと知り、偃月刀の男はせせら笑った。後ろの男もうっすらと笑っている。

「そうか。では、死ね」

 一言を残し、男が跳躍した。一瞬でエステルとの間合いを詰め、偃月刀を振るう。常人ならその速度に反応すらできなかっただろうが、エステルは後ろに飛び退くことでそれを躱した。男の偃月刀は空を切るが、獲物を捕らえなくともその姿勢に一片の乱れはなく、再び偃月刀を構えなおす。整った男の顔には、自らの一撃を少女に躱されたことに対する感嘆と、しかし己の実力で少女に負けることは無いという自負が浮かんでいた。

 男は腰を少し落とすと、次にはエステル目がけて疾駆していた。対するエステルも、今度はスパタを振るう。男の偃月刀とエステルのスパタが雷光の如き早さで激突し、火花が散る。即座に横薙ぎの斬撃を繰り出してきた男の攻撃を、スパタの根本で受け止め、エステルは力強く踏み込みながらスパタの刺突を繰り出した。飛び退りそれを躱した男を追撃し、更に刺突を繰り出す。だが今度は偃月刀で弾かれ、エステルが軽くよろめいた。

 そこを見逃す男ではない、エステルの体に男の蹴りが入る。

「ぐうッ!」

 男の蹴りはエステルの軽い体を易々と吹き飛ばした。しかしエステルは蹴りを辛うじて左腕で受け止め、その威力を軽減させていた。そして空中でバランスを立て直し着地し、息をつく間もなくスパタを男に向けて投擲した。矢のように男へ刃を突き立てるべく迫るスパタを、しかし男は避けない。軽く左腕を伸ばし、そしてスパタの刃を掴んだ。まるで舞い落ちる花びらを掴むかの如き柔らかい仕草で、エステルのスパタは男の手に収まってしまったのだ。嘲笑を漏らし、男は指を離す。スパタは男の指からこぼれ落ちると、そのまま地面へと突き刺さった。



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