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BESTOWERS
【ファンタジー 官能小説】

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I am Providence U-1

 懐から取り出した懐紙でスパタにこびり付いた血を拭うエイダは、今は充満する血の臭いに顔を顰めていた。それも当然で、20人近くいた夜盗はことごとく頭を割られ、首を切り裂かれて絶命してそこら中に転がっているのだ。一瞬にして屠殺場と化した森の中で、先ほどと変わらぬ顔で、唯一生き残ったリーダー格の男を尋問しているのはベラだ。

「誰に雇われたのですか?」

 口調と顔こそ穏やかではあるが、男の首筋には何人もの夜盗の首を刈り取ったスパタが押しつけられている。エイダはその光景は見慣れていたため驚きは無かったが、何度眺めても慣れない恐ろしさがある。

「……くわばらくわばら」

 恐怖と同様のあまり声も忘れたのか、男が口から何も情報を出さないのを見ると、ベラは躊躇無く男の指をつかみ、へし折った。男の絶叫が森に木霊するが、こんな場所にだれも助けにくるはずもなく、空しく森の闇に吸い込まれていく。

「……お互い、無駄な時間を取りたくないものですわね。誰かに雇われたんでしょう? ねえ?」

 問いかけに、男は首を狂ったように上下させる。自業自得とはいえ、その姿はあまりにも哀れだ。

「……そ、そうだ! 雇われた。誰かは知らねえ……本当だ! そいつの手下が俺んとこに金を持ってきたんだ。俺は何もしらねえ! 何も……」

 折られた指を片腕で庇いながら、男は必死に訴えかける。その言葉にベラが心を動かされたようには見えなかったが、やがてため息を吐いてスパタを男から離す。男はその場にへたり込み、呆然と仲間の死体を眺めていた。

「で、信じるのかい?」

 尼僧服のポケットをまさぐっていたが、なかなか目当てのものを探し当てられない様子のベラに懐紙を手渡しながら、エイダは問いかける。ベラは懐紙を受け取り、スパタの血を拭う。そして、元の収納場所、尼僧服らしく長い足の裾にそれを戻すと、男に目を向けた。魂の抜けたような表情をしていた男はそれだけで飛び上がらんばかりに驚き、小さな悲鳴を上げる。その様を見てもう一度ベラはため息を吐いた。

「……そうね。おそらく捨て駒でしょう。実力的に、刺客としてレベルが低すぎるわ。……捨て駒だとしたら、雇い主は自らの正体がばれないようにするでしょうから、その痕跡をこいつらに悟らせないようにするでしょうね」

 血の臭いに混ざり、奇妙な臭いが辺りに立ちこめる。見れば、へたり込んだ男の股間を中心に水たまりが広がっていた。

「成る程、確かに捨て駒にはもってこいな人間だねえ」

 男は失禁した事実さえわからぬほど動揺していたが、彼女達に殺意が無くなったのは理解できたようだ。彼なりに必死に頭を巡らし、その場から一刻でも早く逃げ出すための算段を頭の中で練っているようだった。

「しかし、誰の仕業だ? やっぱりラスプーチンかね?」

「どうかしら? 密偵が買収に応じなかったからといって殺そうとする? そんなことをして、もし事が露見したら十字軍よ?」

 男に妙案は浮かんでこない。そもそも、理解を超えたことが立て続けに起こり、状況を正確に把握すらできていないのだから、最初から答えの無い思案だったと言えよう。だが男は必死に考えた。スパタを仕舞い込んだ女二人はもしかすると自分を見逃すつもりではないか、という楽観的な考えも浮かんでくる。

 ベラはそこで、地面にへたり込む男を再び見る。今までうっかり忘れていた、という顔を見せたが、すぐに彼女は天使の様な顔付きになり、両腕を会わせて祈りの体勢を取った。男は一瞬気後れしたが、聖職者の姿をした彼女らの機嫌を損ねないように、久方ぶりに手を組み、瞳を閉じて祈りを捧げた。

「貴方に主の慈悲があらんことを」

 『祝福』では? そう男が考えたときには、男の頭はベラの手によって本来の方向とは正反対にへし折られていた。自らの尿の上に男の死体が倒れ込む。

「……そのことについて考えるのは後ね。今はエステルが心配なの」

 まだぴくり、ぴくりと指先を動かす死体には目もくれず森の出口へ急ぐベラの後を追いながら、エイダは苦笑する。

「……くわばらくわばら」

 夜はまだまだ長い。


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