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ちびま○子ちゃん
【その他 官能小説】

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ちびま○子ちゃん-8

(8)


 清水旅館に戻ると女将さんが真美子の手を取って頭を下げた。
「ありがとう。健一から電話があったわ。ほんとにありがとう」
真美子は頷きながら女将さんの顔を直視できずにいた。2晩続いた濃厚な絡みの余韻がまだ体に残っている。実際、股間には差し込まれた充溢感が感じられる。絶頂に至ったのも初めてのことだ。
(まさか、そんなことまで報告してはいないだろうけど……)
何だか自分の体の変化を悟られそうで恥ずかしかった。

「来週から離れの改築するの」
「改築ですか?」
「内装だけだけどね」
離れは何度か掃除をしたことがある。先代の夫婦が住んでいた所で、部屋は8畳2間だけだが造りは立派なもので木材も今では手に入らないものだと聞いた。台所、トイレ、風呂もある。

「あなたたちの新居よ」
「え?」
「一緒に住んだっていいでしょ?善は急げ。早いほうがいいわ。それに、来月から住み込みの子が一人来るの。ちょうどいいタイミングだわ」
ほんとうは正式に段取りを踏みたいのだが、形だけにして、
「式は来年2月頃って思ってるの。どなたかご親戚に知らせる方がいるならあたしご挨拶に行くけど」
「特には……でも……」
「それならもう一緒になって。真美子さん。健一と2人でこの旅館をもり立ててほしいの。あなたに託したいの」
「はい……」
ついつられて返事をした。

 話はトントン拍子だが、当の真美子は追いついていけない心境だった。仕事は毎日忙しいから余計なことを考えている暇はないが、部屋では気が抜けたようにぼんやりすることもあった。
『あなたに託したいの』
女将さんの言葉がふとした時に浮かんでくる。結婚を了承したものの、自分にどれほどのことができるのか。それを考え、突き詰めていくと怖くなることもあった。
 
 日を追う毎に気持ちが一つの方向に向き始めたのはやはり健一の存在だった。
(もうすぐ帰ってくる……)
体が待ち望んでいた。心が求めていた。
(一緒に暮らせる)
そのことが真美子の不安や迷いを少しずつ払拭させていった。それと、母を想った。同じ仕事をしていてよかった。もし都会で事務員にでもなったら自分みたいなちびは満員電車で押しつぶされてしまう。……妙なところに考えが及んだ。


 健一が帰る2日前にリフォームは終わり、真美子は踊るような気持で健一を迎えた。
 台所は最新のシステムキッチンに変わっていた。トイレもウォシュレット。むろん電化製品も一式揃っている。建物の外観は古風だが内装は新婚夫婦の勝手を考えてくれている。
「すごい……」
思わず声を上げてしまったのは押し入れいっぱいに詰まった2組の布団である。
(羽毛だ……)
夏用、冬用、毛布、枕。見るからに高級なセットであった。
「女将さん、ありがとうございます」
「あたしの一存でしたことだけど、足りないものがあったら遠慮なく言ってね」


 入籍したのは彼が戻った翌日、前夜新しい布団の上で健一と話し合って心を決めたのだった。
「あたしで、ほんとにいいの?」
念を押す言い方ではなく、幸せを口に出して言いたかったのである。
「真美子以外に結婚は考えられないよ」
上になった健一の『刀』が真美子の『鞘』に納まった状態である。
「じゃあ、役場に行きましょう」
「真美ちゃん、愛してる。大切にするよ」
「健一……」

 蔵王の時とは微妙に異なる昂奮を真美子は自覚していた。
(結婚する……)
その決断が新たな欲情を生んだこともあろうが、別棟とはいえ、女将さんのいる『この家』で健一とセックスしていることに感情が揺れていたのである。
(女将さんはまだ起きているかしら……)
聴こえるはずはないのに、声を押し殺し、堪えることでさらに体が燃えた。
 翌朝、女将さんと顔を合わせた時の恥ずかしかったこと……。


 新しい生活は多忙であった。旅館の業務、離れの掃除など家事は真美子の役目である。
(だらしないところは見せられない)
女将さんが離れに来ることは滅多にないが、常にきちんとしておきたかった。
 食事は賄いをもらうことも多いが、何も作らないわけにはいかない。酒のつまみや何かしら自分で作るようにした。
 女将さんに言われ、合間を縫って着物の着付けに通うようにもなった。ふだんは作務衣なのだが、着られるようにしないといけないらしい。特別な催しの折には着物ということになっているという。
「若女将となればそうなのよ」
10月に旅館組合と女将会の総会があるのでそこで真美子を『若女将』として紹介、お披露目になる。それまでに着付けを一通り習得し、それに伴う所作も身につけておかなければならなかった。
(若女将……)
自分のことなのに他人事に思える反面、重いものがおなかの中に溜まっていくようで落ち着かなかった。

 そんな流されるような日々が1か月経った。
(疲れた……)
生活パターンが変わり、これからの責任も重くのしかかっている。ちびだけど体力には自信がある。肉体的な疲れではないことはわかる。
 若女将の重圧もあったが、もっとも懸念として頭を離れなかったのは健一のこと、であった。

 やさしい。言った通り大切にしてくれる。セックスも楽しい。真美子の体も行為を重ねる毎に開発されるようで彼と共に昇る感覚も会得し始めていた。水泳はちょっときついけど、多少のことは昂奮の材料になる。ストレスが溜まるのは彼の仕事に対する姿勢だった。
 真面目である。それはどこから見てもまちがいはない。日常の業務はそつなくこなしている。だがそれは仲居や他の従業員も同じだ。健一は経営者の立場になる。役目はお客さまへのサービスだけではない。いくつもの旅館を見てきて、また各地を渡り歩いて、真美子には見聞きしてきた業界の浮沈が思い出されていたのである。

 

 



 

 




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