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爛れる月面
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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3.広がる沙漠-18

「……」
 井上は黙って紅美子を見つめてきた。紅美子も直前までの会話で苛立っていたから目を逸らしてしまうのが癪なので、井上の視線を受け止めていた。
「……近親相姦とか、わけわかんない話しなくてもご心配なく。今から徹とイチャイチャするの」井上が紅美子の手を握ってくる。「近寄んないで。あんたのその香水が移ったら困る」
「ここまでくると、行かせたくなくなる」
「そうだろうね。……でも、行く。徹が来るから」
 井上が更にじっと見つめてくる。「その目、やめて。手も離して」
「キスしてくれたら離す。また、君の方からな」
「……子供かっ」紅美子は冷笑を浮かべて、「できるわけないじゃん。外、見てよ。地元近いんだけど」
 土曜日の昼近くにもなると、アウディの車内に目を向ける暇人はいなくとも、浅草の街には多くの人が歩いている。
「この後の君のことを考えると嫉妬する。……君たちを追けるかもしれない」
 舌打ちを鳴らして眉間を寄せると、紅美子は助手席から乗り出し、一瞬だけ井上の唇に触れた。そのまま抱きしめられるかと思ったが、井上は微動だにしなかった。もう一度舌打ちを鳴らして、
「行くね」
 と言って外へ出た。右側の助手席だから車道が近く、クラクションを鳴らしてすぐ傍を車が走り抜ける。アウディの後ろを回って歩道に入り、行き過ぎた松屋へと歩いて行った。振り返ってはいけないと自分に言いきかせ、それでも松屋の入口をくぐる所で少し歩みを緩めて来た方向を見た。しかし白い車は六号線のどこにもいなかった。
 改札階へ上がると、ちょうど多くの人が流れ出てきていた。その人混みの中から、見知った人影を見つける。白いシャツにジーンズ姿の着た恋人がこちらに向かって歩いてくる。改札へ切符を通すところで自分に気づくと、早歩きで駆け寄ってきた。
「待たせてごめん」
 開口一番に謝る徹に紅美子は苦笑した。
「私も今来たとこだよ」
 髪を手櫛で梳き、「昨日遅くて寝過ごした。……あわてて来たから、ブサイクだったらごめん」
「ううん、すごくキレイだよ」
「よろしい。『うん、ブサイクだね』って言ったら、ぶん殴るところだった」
 紅美子は黙った。笑みが消えていき、顔を伏せて半歩進んで徹に近づく。ネイルの鮮やかな十本の指を徹の胸に添えた。優しい笑みのまま、徹が紅美子の腰に手を添えてきた。
「どうしたの?」
 紅美子は俯いたまま、徹の首筋に額を押し当てた。徹の手が腰の後ろまで伸びてきて抱き寄せられる。体が密着した。近くの誰かから囃す口笛が聞こえた。
「……見られてるよ」
 紅美子は首を横に振って、体を更に徹に擦り付けて細かく揺すった。徹の抱きしめる力が強まる。
「……会いたかった」
 紅美子が囁くと、徹も「うん」と小さく言った。徹の体の匂いがする。振ったばかりのフレグランスと混ざって真実を隠していく。徹のジーンズの中が少し硬くなっているのを下腹部で感じた。
「好き?」
「大好きだよ」
「うん……」
 まだあの男の感触が残る唇を徹に向けると、顔が近づいてきた。人が行き交う中でも、相手が婚約者ならばキスは誰にも非難されるものではない。
「なんか……、クミちゃん、いつもと違う」
「そぉ? ……何が?」
「こんな所で抱きついたり、キスしたり……」
「……そうね」
 紅美子は少し背伸びをして徹の耳元に唇を近づけた。「ね、徹。……引かないでね?」
「何?」
 小奇麗な大人の女を演出しているカットソーとジャケット。ミニ丈ながら清楚さも醸すバルーンスカート。紅美子は徹の腕に抱かれ、昨日と同じ服の中でムズムズとした焦燥が起こっていた。
「したい。すぐに」
「……うん」
「私のこと、エロいって思わないで」
「思わないよ」
 更に強く抱きしめられ、もう一度キスをされた。「うれしい」


 浅草寺も花やしきも過ぎ、国際通りの手前にあるラブホテルの一つに入った。ドアを閉めるとすぐに徹に抱きつき、壁に押し付けて唇を吸った。
「したい? 私と」
 秘める必要はない。相手は無二の恋人だ。紅美子はスカートのまま脚を割って徹の太ももを挟み込み、強く抱きついていた。
「したいよ、すごく」
「三週間、……長かったよ」


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