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爛れる月面
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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5.つきやあらぬ-22

 神父は再び二人を見た。「……トオルさんとクミコさんは、今日、夫婦という新たな絆を結びます。アナタがたは、子供のころから一緒にいますが、そもそもは別の人間なのです。油断してはいけません。ロープが緩まぬように。このあとアナタがたに誓ってもらいます。あの有名な誓約の言葉は、絆を緩めないことを誓う儀式なのです」
 神父は目を閉じて祈祷の指を打った。「アナタがたの絆に、神のご加護がありますように」
(絆か……)
 紅美子は徹と一緒に神父に礼をしながら横目で彼を見た。あの男の記憶は消えない。徹の裏切りを見せられた記憶も消えない。このお爺さんの言うとおりだ。簡単に緩む。
「えっと、じゃ、その誓約です」
 神父が退いて紙を携えた紗友美が二人の前に出てきた。
「光本さんがやるの?」
「はい! これ、やってみたかったんです!」
 いいのかなぁ、という目を神父に向けたが、老人はにこやかに見守っている。戒律に厳しくはない、おおらかな人らしい。
「んと……、じゃ、はい、徹さん」
 咳払いをして声を作った紗友美が、誓約の儀式を始めた。「あなたは紅美子さんを、妻としようとしています。……そうですね?」
 紗友美に念を押された徹は、はい、と口パクだけで答えた。
「あなたは、夫としての役目を果たし、常にクミちゃんを愛し、敬い、慰め、助け……」
「……クミちゃん?」
 紅美子が呟く。
「――終生変わることなく、健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しき時も、命が続く限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
 誓います、と喉が枯れて、息が多分に含まれた声で徹が言った。
「声が小さいっ!」
「誓います!」
 ドッと笑いが起こる。
「……さて、クミちゃん」
「クミちゃんは、やめない?」
「あなたは徹さんを、夫としようとしています。あなたは、妻としての役目を果たし、常に徹さんを愛し……」
 紅美子は息を大きく吸って、
「誓います!」
 と、徹以上に大きな声で叫んだ。
「クミ、はやいはやい……」
 近くから紅美子の母親が額を抑えると、囃し立てる口笛と拍手が巻き起こる。
「……待ってられませんか」
「待てない」
 紅美子がはしゃいだ声で答えると、紗友美が笑った。
「じゃー、誓いのキッスして」
 紅美子は徹の方を向いて膝を少し折り頭を下げた。ゆっくりとロボットのように九〇度体の向きを変えた徹が、震える手で紅美子のヴェールを上げると、明らかとなる燦爛とした美しさに、徹だけでなく、野次馬たちも冷やかしや祝采を忘れてしまって気惚れる溜息を漏らした。立ち上がり、徹の前へ半歩進む。鼓動が強すぎて、徹はずっと口で息をしていた。
「……キレイでしょ?」
「うん……」
「ね、早く」
 徹が顔を寄せ、唇を触れてきた。すぐに離れようとする徹の首へ、紅美子がブーケを持ったままの手を巻きつけて更に唇を押し付けると、徹は一瞬驚いたようだったが、すぐに細さが際立つドレスの腰に両腕を巻きつけて引き寄せた。
「ちがうわよ、徹っ……」
 徹の母親が窘めても、二人はずっと抱き合ってキスを続けた。紅美子の容美にシンとなっていた周囲から拍手が起こり始める。
「……えっと……、おい、お前ら。いい加減に離れろ」
 紗友美が低い声で言って漸く、ぷはっ、と息を吹いて離れた紅美子は、徹の前で両手を広げて見せた。
「徹っ、……どうしようっ! ……今日から徹のモノになっちゃった! 私!」
「クミちゃんっ」
 再び徹は紅美子の腰を抱き寄せて抱え上げた。徹の肩に手を置き、空中に浮かびながら、
「……徹っ、おっきな声で言って! 『俺の女だー』って!」
 紅美子は傍に聳えるスカイツリーの展望台を指した。「あそこに聞こえるくらい!」






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