2.湿りの海-7
そこまで告げたところで、突然背後から井上の逞しい腕に抱きすくめられた。前に回された手がバストを下から掬い上げるようにまさぐって、もう一方の手は体にフィットするTシャツからデニムのウエストラインを撫で上げてくる。
「ちょっ、勝手に触んなっ!!」
ヒステリックな声を上げて身を捩ったが、井上の力はやはり強かった。
「……シャワーなんか浴びる必要ないだろ? すぐに始めよう」
引き寄せられた背が井上に密着する。顎を紅美子の肩越しに差し出した耳元で囁かれると、髭の毛先が耳朶を擦ってきた。
「シャワーぐらい浴びさせろよっ、エロオヤジっ。……ガッつくとかキモいし」
「ガッつくさ。最高に僕好みの女なんだからな」
身を捩り続ける紅美子の腰を撫で、やがて手がデニムの股間に忍び込んでくる。抱きすくめられたまま、両手でその手を拒もうと押さえつけるが、強引に脚の間に割って入られると、デニム地越しでもお構いなしに秘丘の頂きに強く指を押し付けてイジってくる。
「くっ……、触るなって言ってるでしょっ!」
「何だ? コレにまで染み出てしまうのが心配なんだろ?」
耳元で囁かれるとカッと顔が熱くなるのを感じて、
「そんなわけあるかっ!」
と抗ったが、厚いデニム地越しであっても、昼間に充分記憶を摺りこまされた下腹部は、井上の中指の感触に勢いよく疼きを強めていっていた。
「そんなわけない?」
井上の囁きが聞こえ、デニムのステッチの硬さを利用して、それを強くグイッと柔らかい部分に押し付けてくる。その硬みがストッキングもショーツも超えて、紅美子の意志を離れて欲求の渦巻いていたクリトリスを捉えると、紅美子はパンプスの踵を浮かせ、足踏みして腰を捩らせた。「……そう言ってるわりには、感じ始めるのが早いな」
「……っ、だからそんなわけないってっ……」
だが井上の指に乗っ取られた繋ぎ目が縦に紅美子の雛先を擦ってくる度に、甘い痺れが下腹部全体を覆い始めてゆく。この痺れが下腹部全てを覆い尽くすと奥が蠕動を始めて、蜜が漏れ出してしまうのだ。押しとどめなければならない。紅美子は歯を食いしばって井上の指に意識が集中しないように努めた。しかしもう一方の手のひらに揉みしだかれていたバストで、井上の指が確実にTシャツもブラもおかまいなしに既に勃起を始めていた乳首を爪で引っ掻いてくると、背中まで駆け巡ってくるゾクゾクとした寒慄に、脚の間に対する防御も容易く切り崩される。ドクンッ……と、体の奥が跳ねて、慌てて力を込めたが、蜜が足元へ向かって垂れ落ちてくるのが分かった。
「濡らしたな?」
腰の慄きを目聡く感付かれ、耳元で敢えて指摘されると、羞恥に耳の先まで熱くなるのを感じた。
「そんなわけないっ……」
「君はそればっかりだな」
井上はステッチで陰湿にクリトリスに擦ってくる。耐えようとするのに、一見、左右のバストを不躾で粗野な手つきで揉み回していると見せて、実は精緻かつ確実に乳首を絶妙な強さで弾いてくる指のせいで、溢れ来る蜜が秘門近くまで及んできた。
「せっかくヤるんだ。素直に感じたほうがいいと思わないか?」
「誰がっ……。あんたなんかとしたって……、あぐっ!」
紅美子が反論している最中に、曲げた人差し指に親指を押し付けるように、衣服ごと乳首を強く挟まれ引っ張られた。痛みに混じってもどかしい掻痒感がバストへ拡がると、呼応するようにドッと蜜が溢れた。
「……今日、ちゃんと女としての愉しみを教えてやるから」
「何わけ、わかんない、こと……、い、言ってんの? ほんっと、キモいし」
「君ほどの女が、男にヤラれる悦びを知らないなんて、もったいないって言っただろ?」
「だからって!」一際大きな声で紅美子は叫んだ。「あんたなんかにされたくないっ!」
悲痛な叫びを聞いた井上は好虐の炎を燃え立たせて、片手で紅美子のデニムのフロントファスナーをくつろげ、荒々しく腰骨から脚の付け根までジーンズを引き下ろした。厚い布に守られていた下腹部を晒すと、ストッキング越しにその丸みを際立たせている丘の中心へ指を押し込んでくる。クリトリスを襲ってくる指の感触は、デニム越しの比ではなかった。
「濡らしまくってるじゃないか。なんだこの汚い下着は」
デニムの硬い生地越しに弄られただけで、クロッチから溢れて前後にまで染みだしていた蜜を秘門の柔肉にまぶし、指を震わせると卑猥な水撥ね音が立った。溢れ出る愛汁がストッキングの内ももを濡らしていく。
「んあっ!! ……、ちょっ……、やだっ!!」
その音を紅美子も聞いてしまって頭を左右に揺すって事実を受け入れることを拒否した。
「すごい音だな。昼間おあずけされてたまらなかったんだろ? ほら、どうする? どんどん汚れていくぞ?」
「いやっ……、ちがうっ。あんたじゃないっ! お前なんか……、くっそっ……」
だが井上の指に合わせて腰がグラインドするのが止めれなかった。
「……これだけ濡らすエロ女だったってことだ、……フィアンセ君ではイヤラしい君をここまですることができなかったってだけさ。よかったな。僕に出会えて。……ほら見てみろ。二度と履けないくらいに汚してるぞ?」
これまで経験したことのない程の分泌だった。しかもこれは愛おしさに滲んでいるものではない。なのにクリトリスと入口の左右の扉を暴虐とも言える手つきで弾き回されて、濡れて捻じれている下着が擦れる度、蜜が噴流のように溢れ出してくる。
「や、やめて……。や、破けるっ……」