1.違う空を見ている-26
徹の言うとおり、東京では絶対に体験できない、車の走行音も人の話し声も全く聞こえなかった。本当に向かいの山まで誰一人いないように思える程の夜の深淵に向かって煙を吐き出す。
「星すごい。……月もなんかちょっと大きく見える」
「空気が澄んでると、光がたくさん入ってくるからね」
しかし今夜の月は少し橙みがかって凶々しく照っていた。陰影の輪郭が滲んでいるように見える。
「クミちゃん」
「ん?」
「キレイだよ」
「……どうした、急に」
窓枠に腰をついて背負うように紅美子は徹の方に身を向けた。
「いや、月見てるクミちゃんがすっごいキレイだったから」
「見とれた?」
「うん。ずっと見てた」
「……声掛けずにずっと黙ってみてたんだ? 覗き見だ」
「なんか、月に昇って行きそうだった」
「何そのホメ言葉」煙を吸い込んで軽く咽せながら笑った。「キモい」
(真顔で言うからスベっちゃうんだよ)
そう思うと何故だか逆に徹が愛おしくなった。
「そっち行って、キスしていい?」
「……させてあげる」
徹が立ち上がって歩いてくる。また股間で男茎がだんだん上向いていって、歩く度に揺れるのを見ると、紅美子の下腹部に漂っていた甘い痺れが強くなった。近くまでやってきた徹に両手を差し出して絡みつこうとしたら、急に視界から徹が消えた。
「わっ、ちょ……」
徹は紅美子の足元に膝まづくと、両手で腰をしがみつくようにして、閉じた脚の付け根に唇を近づけていきた。「……そっち!?」
ヘアに徹の唇が触れると、そよぐほどの感触なのに下半身が震える。やがて強く押し付けられて、唇がヘアを掻き分けて襞をはんでくると、膝が折れて尻もちをつきそうになる。窓枠に掴まらなければ立っていられなかった。
「もぉ……、何してんの? キスは?」
「……んっ、……してるよ」
唇で吸い付く湿音に混じって、脚の間から徹の答えが返ってくる。たちまち緩んでしまった紅美子の秘所は新たな雫を徹の唇に向かって漏らすと、それを舐めとられる音が聞こえて、
「やだっ……、徹。……待って」
と止めたが、徹は熱い息を紅美子の体の中心に吹きかけながら、何度も紅美子の柔らかな入口にキスをしてくる。
「クミちゃん、……んっ、……気持ちいい?」
「どうしたの? ……徹。やっ……、んんっ……、ねぇ……。今日の徹なんか、変」
三週間も会わなかったのは初めてだったから、徹が見せるこれまでにない程の紅美子への執着に驚きながらも、全身を浸されるほどの愛情に紅美子は体が溶け落ちそうになっていた。体の奥からはいつもとは比べ物にならないほどの悦びが滴っているのが分かった。衝動が堪えきれなくなって、紅美子は両手を徹の頭に付くと、脚を割って顔に跨ぎ上がるように自重を掛け、腰を前後に動かし始めた。
「……変態。やだ、もう……」
自分から徹の顔に乗り上がったのに漏らした言葉に反して、唇が秘丘に触れて擦れる度に、奥から更なる雫が滴り落ちてくるのを感じていた。何とか徹の頭に掴まって立って、腰を揺すっていたのに、敏感になった雛先を唇が挟んで摘み上げてきた途端、たまらなくなった紅美子はその場に崩れ落ちてしまった。身を打ち付けた痛みなどよりも、早くもう一度触って欲しい思いのほうが強い。早く。
……なんか、久しぶりに会ったせいかな。徹、すごく男らしい。
正面から覆いかぶさって来た。紅美子の首筋や肩、そして覗いたバストの頂点で硬く勃った乳首へキスを繰り返してきて、その度に紅美子の肌が震える。乳首を唇ではんで引っ張り、反対を指の先で弾くと、跳ね動いて突き出してしまう腰を指が迎えて入口を撫でてくる。
初めてしたときからずっと徹をイジメてきた仕返しかも……。でも、こうされるのも、すごく気持ちいい。
身を起こされて後ろから抱きしめられる。凭れた肌は思っていたよりも逞しい。脚を脚で割られて開かされると、無防備になったその場所へ手が忍び込んでくる。
徹、なんか、すごいエロい……。今度から会う時は徹にもこうされたい。徹にされるのも、こんなに気持ちいいなんて、知らなかった。
雛先に指が触れると、普段誰にも聞かせたことがない、甲高い声が漏れる。恥しいが、紅美子は恋人だけになら聞かせてもいいと思った。
私、きっと東京に帰りたくなかったんだ。……きっと徹にこうやって抱きしめられて、愛されていたいんだ。
紅美子は両手を後ろに回し、頭を引き寄せてキスをしたかった。だが腕を上手く動かせずに捕まえることができない。
あれ、どこ……徹。
触りながら、キスして欲しいのに。
「すごく濡れてる」
光が瞼に差していた。眩しくて目が開けられない。ずっと朝まで愛され続けてた? 紅美子はゆっくり瞼を開けていく。
……ずっとしてたの? うれしいけど、私にもさせてほしいのに。
「やっと意識が戻ってきたか?」