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爛れる月面
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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1.違う空を見ている-25

 と笑って首元に回された徹の腕に手を添えた。「そんな殺したりなんかしないよ。……でも、徹が私だけのものでなくなっちゃったら、きっと私が死んじゃうと思う。悔しくて」
「絶対しないよ」
「もし浮気したら『キィィッ!』てなって、死んじゃうよ」と笑みを含んだ声で言って、「……私と結婚したら一生そうだからね? 五歳からだから、徹の人生の殆どが私のものになっちゃう。いいの?」
「本望かな」
「徹って、ドMだ」
「それは知らないけど。クミちゃんのもので居られるなら、何でもいい」
「そういうとこがドMなの」
 ……背中越しだから見えなかったけど、あの時徹は真顔で言ってたんだろうな。
「……クミちゃんは、浮気しない?」
 問いたいが勇気が出ずにいた長い沈黙のあと、徹が紅美子に問うた。
「したらどうする?」
「俺も悶絶して死ぬ」
「心配?」
「心配……はしてない。信じてるから。でもクミちゃんが他の男に声かけられたりされるって思うと嫉妬が抑えられない。昔からそうだけど、なんか……、大人になればなるほど、すごい嫉妬してる」
「病気だ」
 紅美子は徹の腕の中で反転した。正面から徹に密着して、背中に回した手で力いっぱい抱きつき、徹のうなじに額を擦りつけた。「それに、今の私ら、すっごいバカップルだ」
「バカじゃないよ、マジメだもの」
「本人たちがマジメな所が、バカップルなんだよ。……ねー、徹。力弱い。不満なんだけど?」
「ん」
 徹が力を込める。昔に比べたらずっと力も強くなった。
「……徹。なんか私、今やっと実感してきた」
「なにが?」
「明日から徹いないんだね。今までドア出て一分のところに徹がいるのが普通だったから」
「だからずっと言ってたのに、俺」
「うん……」
 頭を上げて徹の顔を見つめる。「今からチューしようとしてる?」
「できれば」
「だめ」
「人多いから……、見られたら困る?」
「困んない。……でも、どこでもいいから、二人っきりになりたい。チューだけじゃイヤになった」耳元に唇を寄せて、「すっごくしたい」
「うん」
「徹が明日出発でよかった」


 紅美子は夜中に目が覚めた。起き上がり、ぼうっとする視界で周囲を見回す。初めて訪れた徹の部屋だということを思い出した。何も着ていない。すぐ隣で同じく何も身につけていない徹が寝返りを打った。こめかみから垂れる髪を両手で交互に擦りながらベッドの上を見渡すと、至る所に結んだコンドームが転がっていた。三週間ぶりに会った徹は紅美子からなかなか離れなかったし、収まらなかった。眠りにつくまでに徹と繋がった回数が実感されて一人で苦笑した。やがて徹を起こさないように立ち上がる。部屋の隅にある洗濯カゴから徹のネルシャツを取り出して素肌の上に羽織った。昨日迎えに来てくれた時に着ていたネルシャツからは徹の匂いがした。
(持って帰ろうかな、これ)
 そう考えながら、テーブルの上にあったタバコを一本咥えると火をつけた。灰皿を片手に窓際へいく。部屋の中は二人の汗や、お互い体から漏らした悦びの雫の蒸すような空気が充満していたが、紅美子が窓を全開にすると弱風に吸い出されるように外へ出て行った。見上げると東京では見ることはできない満天の星空と光り輝く月があった。アパートからは田んぼと山の輪郭しか見えず、点在している筈の人間の生活の場所は全て薄闇に溶け込んでいた。月を見上げながら、タバコを吸う。下腹部は何度も受け入れた徹の男茎の感覚を残して僅かに甘く痺れていた。
「クミちゃん」
 声がして振り向くと、目を覚ました徹が身を起こして紅美子を見ていた。
「……ごめん、起きちゃった?」
「何してるの?」
「別に……。外見てタバコ吸ってるだけ」
 徹は足をフローリングに下ろしてベッドに座った。
「そんな窓開けてたら誰かに見られちゃうよ」
「見られたら嫉妬しちゃう?」
「うん」
「……てか、だーれもいない。すっごいね、ここ」
 アパートは山肌に忽然と現れたように単独で建てられていた。隣は農耕具のトタン屋根の倉庫のみ。アパートのオーナーは別の所に住んでいるようだった。「夜はちょっと怖い」
「街灯もないからね。でも夜はすごい静かだよ」


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