小さな町の夜-4
扉を開けたままの個室の中が見えた。
看護師の後ろ姿が見える。
その奥で千帆が壁に手を突きながら浣腸のガマンに苦しんでいた。
「いやぁ〜!いやぁぁ〜!」
さんざんガマンさせられ、悲鳴を上げて泣く生徒。
コーチは、思わずその光景から目を逸らした。
「さあ、いいわよ」
やっと看護師の許可が下り、手が離されるや否や千帆はしゃがんだ。
ビューーー!ビィーーーッ!!
先ほどより勢いのある放水が迸る。
便器の溜まり水が泡を立てて渦巻いた。
「うう〜ん!」
千帆は苦しみながら力む。
背後で看護師が固唾をのんで排便を待っている。
「うう〜ん!」
真っ赤な顔をしかめて力を込める。
ビジュ…、ビジュ…。
放水が終ると、それはガスまじりの泡に変わった。
ブジュブジュ…
「はぁ、はぁ…」
これ以上は力が入らず、排出は無理だった。
あんなに苦しんだのに、またしても固形物は出なかったのである。
便器に沈殿する茶色に濁った液は、千帆のお腹の奥にある固形物の存在を物語っていた。
しかし、誰もそれを引き出すことができない。
千帆の顔は焦りで引きつっている。
(どうしよう…)
便器にしゃがんだまま顔を覆うと千帆はシクシクと泣いた。
千帆は、また診察ベッドに寝かされた。
疲労と挫折感で呆然としている。
その傍らでは医師と看護師、そしてコーチによる話し合いが行われていた。
看護師から報告を受け、医師からは余裕のある態度が消えていた。
「もう、市内の大きな病院に運ぶしかないだろう」