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透明な滴の物語V
【同性愛♀ 官能小説】

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小さな町の夜-5

コーチが質問する。
「その市内の病院まではどれくらいあるんですか?」
「そうだなぁ、なんだかんだで1時間はかかるねえ」
「私は外からここに来ているので、市内の道に自信がありません。夜ですし…」
「うーん。救急搬送しかないかなあ…。これ以上悪くなるとやばいよ」
深刻な表情を見せる医師に看護師が意見する。
「あんた、ここからじゃ、救急でもクルマでも、時間あんまり変わんないよ」

硬いベッドの上で会話を聞いていた千帆は、身震いするような不安感に締めつけられた。
(私、どうなっちゃうの…)
そして、千帆だけには聞こえた。
ここへ来るときにクルマの中から見えた黒い山々。
そこにひそむ鬼たちがざわめく声を。
『ほらみろ!治らないじゃないか』
『生け贄はここにいたのかぁ!?』
鬼たちが動くたびに木々の葉が揺れて音を立てる。
黒い稜線の山々がいっせいにざわめく。
鬼が千帆のいる小さな町へ降りて来ようとしているのだ。
(そしたら見つかって捕らえられてしまう!)
少女ははっきりと死の恐怖を感じた。

「助けてください!」
大人たちがその声に振り返る。
そこには、ベッドの上で正座した千帆の姿があった。
「助けてください。お願いします。私、怖いんです」
千帆は震えながら泣き出した。
「お願いです。助けてください。助けて…」

大人たちは、神妙な面持ちになった。
ひとりの少女が見知らぬ町で恐怖に押し潰されそうになっている。
環境の変化でひどい便秘になり腹痛を起こしてしまった。
夜中に古い病院に運び込まれて、苦しい治療に耐えた。
しかし、大人たちは治せないと言って諦めている。
どんなに心細いことだろうか…。
大人たちは今、初めてこの少女に心から同情し、そして決心した。
絶対に治してあげよう、と。



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