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孤愁
【その他 官能小説】

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孤愁-9

 外泊した翌日、妻に変化を感じた。口数が少なくなって、明らかに表情が強張っていた。
 有村は何も言わずに通した。彼女も昨夜のことを訊くことはなかった。
夜のつながりがないとはいえ、夫婦の関係、家庭が崩壊したわけではない。だから貞節を守るのはルールなのだと思う。だが心の問題となれば男と女は同じ歩みとはならないことがある。すまないと思いながら、
(仕方がない……)
ほとんど視線を合わせない妻の顔はずいぶん老けて見えた。

 理恵はあの夜、二度目で全身を硬直させて達した。有村が導いたというより自ら駆け上がった感じだった。
「やっぱり若いほうがいい?」
「理恵のほうがほっとする……」
それは本心である。
「嬉しい……」
 朝、理恵に起こされたのは六時前である。
「何時に出ればいいの?」
「七時すぎ」
「まだ一時間ある……」
理恵は布団に潜り込んでペニスを弄ってきた。疲労を感じてはいたがその行為は心地よかった。
「ここも起きてきたわ」
跨ってきた。
「おい……」
「ちょっとだけ……」
ゆっくり挿入され、温もりに内包された。もう潤っていた。
「気が向いた時、誘ってね」
肉茎を味わうように締め付けてくる。
「ああ……いい……」
彼女の体温が伝わってきて肌が溶け合った。


 憩いの場所が出来たように思った。身勝手だが、理恵に対して義務も責任もない。彼女にも思惑はないだろう。互いにひとときを楽しめばいい。理恵の言葉からそんな気持ちが伝わってきたし、彼にも異存はない。むしろ願ってもない関係である。愛人となれば煩わしさがつきまとうだろう。
(理恵……)
打算がなく気を遣わなくて済むのがいい。たった一晩過ごしただけなのに自分をさらけ出せるような気さえする。
(一晩だからよかったのか?)
度重なれば何かを引きずることになるのだろうか。ともかく、理恵の言葉が気に入った。
『気が向いた時に……』
それは無期限の約束でもある。理恵も寂しいのかもしれない……。


 それから十日ほど経った夜。改札を出たところに美貴の姿があった。
「ご縁があったのかしら」
驚いて立ち止まった有村に美貴は小首をかしげて微笑んだ。
「お久しぶりです」
「しばらく……」
やっとそれだけ言うと、彼女の全身に目を奪われていた。
 胸の大きくあいたインナーは小さな膨らみの谷間が覗くほど大胆だ。ミニスカートにはきわどいくらいのスリットが入っている。
「会いたかった……」
雑踏の中で立ち尽くしたまま有村は呟いていた。
「ほんと?嬉しい……」
笑みが消え、俯いた睫毛が何かを伝えるように瞬いた。
「どこか、行こう……」
美貴の腕をとって歩き出した。
(美貴は俺を待っていた……)
偶然ではない。確信があった。

「どこかで再会を祝して……」
美貴は頷いたものの黙っている。
 居酒屋の前を過ぎ、せわしなく頭が回転する。
「おなか空いてる?」
黙って顔を横に振った。それが合図となった。
「行こう……」
 理恵とゆっくり過ごそうと電車を降りたのだったが、その想いは消えていた。

「今夜は積極的なんですね」
部屋に入って美貴はようやく口を開いた。有村は椅子にかけて煙草に火をつけた。性急にここまで来たものの、ここから先は歩くようにはいかなかった。酒も入っていない。

「しばらく会えなかったですね」
「あれから何度か『純』に行ったんだ」
「……あたしも……」
「聞いた……理恵から」
「あたしに会いに?」
「そう。会いたくて……」
「理恵さんにも?」
「え?」
ベッドに腰かけた美貴はジャケットを脱いだ。

「理恵さんの目、変ったわ」
有村の視線を逸らせた彼女の横顔が引き締まった。
「それ、どういうこと?」
美貴は答えず、意味ありげに微笑んだ。
「お湯、入れてくる」
覗く太ももがしっとりとした質感を感じさせる後ろ姿であった。
 


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