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孤愁
【その他 官能小説】

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孤愁-8

 舌が周回して鰓をなぞる。口の圧迫はほとんど加えずにあくまでも柔らかな舌戯である。
(相当な経験があるな……)
 むずむずと快感が広がって、秒針が時を刻むように少しずつ硬くなっていく。舐めながら片手は幹をゆっくり扱き、一方の手は股間全体を刺激してくる。

 やがて頃合いとみたのか、口がすぼめられ、上下の動きに変わった。
ぐんと漲ったのは理恵の技巧にもよるが、脳裏に美貴を思い浮かべたからだ。後ろから突きさした場面が気持ちを掻き立てたのである。
 それとは知らない理恵は口を離して、
「よかった。硬くなった……」
嬉しそうに言った。
「俺も舐めてあげるよ」
「うん。いっぱいね。ほんとに久し振りなのよ」
甘えた声で言いながら仰向けになった。

 黒ずんだ亀裂の唇が濡れた赤い口をみせた。まじまじと見ていると理恵は隠すように腰をひねった。
「恥ずかしいよ。そんなに見ちゃ」
自分で開脚しておきながら言う。
 繁みに頬擦りをして、口を押しあてた。
「いい!いい!吸って!」
やんわり吸い、敏感な突起を弾く。
「ああ、いいわ。いい」
淫臭が漂う。
「気持ちいいわ。有村くん……」
手を伸ばして乳首をつまむ。
「あう……痺れちゃう……」
理恵は頭を上げて縋るように顔を振った。
「ねえ、入れて、お願い」
よほど昂ぶっていたものとみえる。
「我慢できない」
せがまれてペニスは一段と充溢した。
「そのままきて、そのまま」
蠢く黒鮑は先端を押しあてるや彼を吸い込むように呑み込んでいった。

 一体となり、理恵がしがみついてくる。
「こうなると、もうだめ……」
理恵の腰の動きは微妙な回転をともなっている。膣壁がなめすように擦り上げてくる。
(巧い……)
熟達といっていい。締め付けの力加減といい、動き具合といい、自分が昇っている道でありながら快楽を共有するように有村をも巻き込んでいく感じだ。

「理恵、いっちゃうかも……」
「いいよ。いいわよ。出して……」
動きに合わせて突いた。
「ううっ、あたしもイキそう……」
苦悶に歪む理恵。急激に切迫した。しなったペニスが一瞬極限の硬直を張って噴出が始まった。
「ああ、出てる……有村くんの……ああ……」
局部をぐいぐい押しつけて吐息の混じった声を上げた。

 やがて波が引いて、折り重なった彼の背中を理恵がさすって頬擦りをしてきた。
体を起しかけると、
「ティッシュとって」
箱ごと手渡すと数枚引きぬいて寝たまま股に挟んで笑って舌を出した。
「有村くんとしちゃった……」
彼も苦笑した。
「シャワー浴びてから帰る?」
「うん……」
「じゃ、一緒にいこう」
理恵は脚を上げて反動をつけるとマット運動のように起き上がった。その動作は子供みたいでとても可笑しかった。ふっと心がふんわり軽くなった気がした。
「理恵、泊まれる?」
「え?……いいけど……。奥さん、いいの?」
「もう電車はないし……」
「あたしはいいけど……」
いまさら電話しても意味がない。
「じゃあ、ゆっくりしようか」
理恵は嬉しそうに頷いた。

 なぜそんな気になったのか、自分でもよくわからない。ただ満ち足りた想いがあったのは確かなことだった。しかしそれは性的満足からきたものではないように思えた。美貴を抱いた時には生まれなかったものだ。その気持ちは、安らかで、流れるようでいて、どこか日常的な温もりのような感じがしていた。
(理恵がくれたものか?)
ふと思い、もっと一緒にいたくなったのだった。
 妻の顔がぼんやりと過る。結婚してから外泊をしたことはない。言い訳を用意するつもりはなかった。それより明日はここから出勤することになる。
(きついだろうな……)
有村は理恵を抱きよせてバスルームに向かった。


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