孤愁-7
(3)
会えないとはいえ、連絡の取りようがないので『純』に立ち寄るしか手立てがない。
「有村くん。お得意様になったわね」
理恵が何か含んだような言い方をして少しきつい目をみせた。
「ちょっと寄っていくと息抜きになるんだ」
「そう。嬉しいわ。でも、内心がっかりでしょう?」
「何で?」
「彼女に会えなくて」
「彼女?」
「とぼけなくてもいいわよ。お客さまのことには立ち入りませんから」
「何を言ってるんだか……」
言葉が途切れたことで話を認めた結果になった。
理恵は煙草に火をつけて顔を横向きにして煙を吐いた。
「ついこの間、四、五日前かしら。見えたのよ」
「ほんと?」
理恵がにやりと笑って、仕方なく彼も応じた。
「すれ違いだったわね。有村くんのこと訊いてたわよ。最近来ないんですかって」
「そう……」
理恵は心持ち顔を寄せてきて声を落とした。
「寝たんでしょ?」
「ちがうよ……」
明らかにぎこちないと自分でもわかる。
「ちょっと悔しいわ」
「何が?」
「あたしのほうが長い付き合いじゃないの」
「だって、同級生だろう」
「そんなの関係ないわ。その気がないってことよ」
「そうじゃないよ。やっぱりやりにくいよ。それだけだよ」
「どうせオバサンですから」
「ちがうって。理恵は魅力あるよ」
「そう?だったら抱いてみてよ」
笑いだした有村を理恵は睨みつけてきた。
本気だった。
「看板の少し前に出て外で待ってて。フケちゃだめよ」
有村の返事も聞かずに席を立った。
(いったいどうしたというんだ……)
理恵の後ろ姿を目で追いながら時計を見やった。妻の顔が浮かんだ。
美貴を抱いた夜、帰宅した時は日付が変わっていた。妻は布団から出てくることはなかったが、気配で眠ってはいないようだった。翌朝も何も言わなかった。特に後ろめたさは感じなかったが、今夜はもっと遅くなるかもしれない。やや重い気持ちになった。
「何だか不思議な感じだな……」
理恵に口づけしてから彼は言った。
交替で風呂に入って、ベッドにもぐりこんでみたものの、いきなり体を貪る気にもなれず、抱きよせて乳房を弄っていた。体はやや肥満気味だが、それだけに肉感的ではある。美貴とは正反対といっていい。
「不思議って、同級生だからってこと?」
「うん。だって中学の頃は俺の存在なってなかっただろう?」
「たしかにね。クラスにいたのは憶えているけど」
「ほとんど話をしたこともなかったし」
「それがこうして……」
「不思議だろう?」
「ふふ……縁なのよ」
無理なこじつけに苦笑しながら、有村は自らを高めようと理恵の体を隅々まさぐった。話をしていると股間は転寝をしたままである。
「理恵とこうして……照れ臭い気持ちだな……」
そう言ったのは嘘である。勃起していないことの言い訳のようなものだった。理恵が袋ごと揉んでいるのだが、十分な硬さになっていない。
「あの女、よかったの?」
彼はごまかすように笑って答えなかった。いま、理恵の中で美貴は『お客』ではなくなっていた。
「この前、あの人が来た時、目を見てわかったわ。有村くんを探す目の動きだった」
「そんなのわかるの?」
「わかったのよ」
話しているうちに息を弾ませてきてペニスを握る手に力がこもった。
「本当のことを言うと、とてもいやな気持ちになったのよ。あなたが知らない女と寝たって考えたら……」
「でも、そんなこといったって……」
「あたしには関係ないことなんだけど、厭だって思ったの」
嫉妬されてるのだとしたら、喜ぶべきか。
有村の手が乳房から移動して下腹へ向かい、草むらにさしかかると理恵は吐息した。
「出た……」
「出た?」
「濡れたの」
「わかるんだ」
「はっきりわかる……」
秘部に進んだ指が溝に浸かった。
「ああ、感じる……」
自ら脚を開き彼の指を奥へと招く。ねっとりと濃厚な愛液である。
亀裂はかなり大きい。秘口もゆるやかで柔らかい。二本の指が根元まで納まり、ゆっくり攪拌するように動かした。
「ああ、気持ちいい……」
ここへきても彼はまだ不完全なままである。熱くなった理恵の扱きも速くなる。
「あたしじゃだめ?」
「そうじゃないよ。齢だし……」
「だって、あの女……」
言葉を呑み、
「抱いて……あたしいま、男いないの」
「長いのか?」
「いない歴、二年半。蜘蛛の巣張っちゃうわ」
「俺は十五年以上」
「まさか」
「ほんと……」
「別れたの?」
「いや、セックスレス……」
「そうなの……じゃ、できない?」
「……女房がね……」
「それなら気兼ねないかしら……」
理恵は深く詮索することなく、起き上がって彼を仰向けにすると寝そべっている一物に向き合った。
「舐めてあげる。愉しもうよ」
咥えると上目使いの目で笑った。