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惚れ薬
【その他 官能小説】

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彷徨-1

 爺さんと出会ってから半年が経とうとしていた。
ワンカップの酒で手に入れた『媚薬』。ほんの少し飲ませるだけで女の方から無条件に身を任せてくる驚異の惚れ薬。
 どんな女にも効く。処女だろうと人妻だろうと誰もが羞恥を失くして肉欲のおもむくままに燃え上がる。
 女だけではない。男にも効果を及ぼすことがわかった。安田の口にうっかり入ってしまい、大変な目に遭うところだった。江里と示し合わせて何とか会社を抜け出したが、あとから同僚に訊くと血走った目で俺の名を呼びながら社内を捜しまわっていたそうだ。男にも女の要素があるということなのかもしれない。

 この薬の利点は、どんなに淫らなことを仕掛けようが時間がくれば記憶が消え去ってしまうことだ。その場限りのことなのだ。だが、逆にいえば好きな女であっても効力の消滅とともに見向きもしてくれなくなるということでもある。愛を捧げたとしても無駄なのだ。そう考えると、夜一人でいる時などふと虚しくなってくる。それに、
(永遠に使い続けることは出来ない……)
快楽に浸れば浸るほどその反動は暗澹たる重みをもって心にのしかかってくる。

(女を抱いて得たものはなんだ?)
口に出して呟くと、一方で猛然と反発が起こる。
(何を考えることがある。こんな愉しみを知っているのは世界中で俺だけなんだ)
そしてふたたびむらむらと精気が満ち満ちてくるのである。


 欲望は限りないものだ。ここひと月ほどの間、俺の行動は方向と範囲を変え、見知らぬ女を求めるようになっていた。やはり手間がかかったが、二度成功した。

 一度目はスナックのホステスを狙った。酒に混ぜれば飲ませるのはたやすいと考えたのだが、意外と難しいものであった。
 まず第一に自分の欲が邪魔をした。相手は誰でもいいと思っていながら、つい好みの女に目がいってしまう。容姿がよければ人気もある。あちこちから指名がかかってなかなか俺の席にとどまらない。それに彼女たちは酒を飲ませるのが仕事なので自分は口を湿らせる程度でろくに飲まない。席を立った隙にようやく薬を入れたと思ったら別の女が時間つなぎにやってきて、そのグラスはそのままになってしまう。
(口説くわけではない。酒を飲むだけでいいのに…)

 結局、その店には五回通った。顔を知られたことで接客も丁寧になり、女たちはたびたび俺の席に来るようになった。それでも何とか飲ませることが出来たのは目当ての女ではなかった。

 女はサエと名乗った。女子大生でアルバイトをしているという。学校名は明かさなかった。
「いえるほどの大学じゃないの」
本当かどうかわからない。肌の肌理は細かくて齢はごまかしていないようだったが、ややずんぐりした体形で胸も小さい。若さだけが取り柄の女であった。
 勢いに任せた飲み方はやはり素人である。
話をしながらそろそろ効いてくる時分と表情を観察していると、目の動きが忙しなくなってきた。
「お客さん、看板までいるの?」
「いや、その前に帰るつもりだけど」
「あたし、バイトだから十一時にあがりなんだけど…」
甘える口ぶりでじっと俺を見る。
「じゃあ、どこか行く?」
「え?時間いいの?」
「いいよ。一晩中でも」
「いやだ、ふふ…」
嬉しそうに身をひねった。
「外で待ってるよ」
「うん」

 このサエが大当たりだった。感動すら覚えたほどである。何がといって、膣内の感触が素晴らしかったのだ。感触、というより『動き』といった方がいい。
 サエはさほど経験はないようで、奈々枝のように自ら絶頂を目指す積極さや、男を唸らせる技巧は持っていなかった。ところが挿入して間もなく、『そのこと』に気づいた。
(膣が、ちがう…)
納めているだけで膣壁が、ねっとりとまとわりつくように蠕動しているのである。まるで、
(膣がペニスを舐めている…)
 初めはサエが引き締めて括約筋を動かしているのかと思ったのだが、そうではない。その種の動きではないのである。何もしていないのに内部だけが微妙に蠢くのである。
(ひょっとして…)
ミミズ千匹と話に聞いたことがあるが。……
(これがその器なのか?)
ともかく、初めての体験であった。

 目を閉じてじっと動かず、ペニスに伝わる快感を味わう。間違いなく微かに動いている。
(何という感覚だろう)
まるで小さないくつもの舌が亀頭に絡みついている。俺は改めて女陰の緻密さ、奥深さに感じ入ったものだった。
 あまりの快感に俺は間もなく果ててしまい、二度目の行為も愛撫もそこそこに挿入して我を忘れた。
(名器だ、名器だ)
「素敵だよ、すごいよ」
「ああ、感じるわ…」
サエは終始歓喜の言葉を口走っていたが、俺が一方的だったので達するまでには至らなかったようだ。ただ血流に運ばれた薬に翻弄されて悶えていただけだと思う。
 自分の性器が稀な機能を持っていることなどサエは知る由もないだろう。
(可愛い…)
不思議なもので愛しくなってくる。
(次の機会にはサエを導いてやろう)
しかし、しばらくして店に行くと彼女はもういなかった。


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