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惚れ薬
【その他 官能小説】

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彷徨-2

 もう一人は喫茶店で偶然見かけた女である。たまたま隣のテーブルに居合わせただけでその気はまったくなかった相手だ。
 ファッションモデルを思わせる長身で細身のスタイル。容貌も彫りが深くて、おそらくたいていの男たちが興味を抱くにちがいない『美女』であった。だが俺の好みではなかった。容姿にケチのつけようがなく、完成された肢体なのだが、なぜか印象として柔らかさを感じないのである。いうなればマネキン人形の冷たさを感じて、温かな質感が伝わってこないのだった。
 背の高すぎる女、痩せすぎ、日本人離れした面立ち。すべて好きではない。こればかりは好みの問題だから仕方がない。

 女はどこか気取った仕草で長い脚を組んで煙草を吸っていた。ミニスカートの裾が少し捲れて、パンストで蔽われた太ももが際どい辺りまで見えている。もう少し体を捻れば下着も見えそうである。単純な興味で見ていたが、一向に淫らな想いには至らない。気持ちが変わったのは予想外の感情が発端である。
(怒り…)が俺を揺さぶったのだった。

 偶然目が合って、何気なくそのまま見合っていると女がきつい視線で睨みつけてきた。
(なんだ?)
女が組んでいた脚をほどいて居住まいを正したことで思い当たった。どうやら俺が太ももを見ていたことが理由のようで、女はさらに裾を引き下げながら、『スケベ』と吐き捨てた口の動きを見せた。
(!ふざけるなよ…)
屈辱と高慢な態度が俺を行動に駆り立てた。
(犯してやる…)
 女が化粧室に立った隙に、俺は迷うことなく立ち上がった。雑誌を取りに行く振りをしてカップに瓶から直接薬を垂らした。スポイトを使える状況ではない。周りには他の客もいたし、もたつくことは出来なかった。だから微妙な加減は無理である。かなり多めに入ったと思う。
(かまうものか…)

 席に戻った女は座る前に俺に嘲るような一瞥を投げてきた。意識して背筋を伸ばして澄ました口元。
(ふざけやがって)
その口に流し込まれるコーヒー。
(やった!)
思わず膝を叩いた。あとは待つだけだ。

 女は見るともなく雑誌をぱらぱらとめくり、なおもちらちらと横目を向けてくる。
(自意識過剰だ…)
厭な女だ。
(くそ、早く効いてこい…)
 ほどなく雑誌をラックに戻した。
(帰るなよ、まだ帰るな…)
水を飲み干した。
(もう少しいてくれ…)
煙草をバッグにしまって細い指がレシートをつまんだ。
(まずい…)
まだ十五分しか経っていない。あと少しなのに…。
 薬が効いてくれば『俺の女』になるのだから何か話しかけて引き止めようかと腰を浮かせたが、その度胸はない。考えているうちに女は支払いを済ませて出て行った。
(追えば確実にモノにできる)
薬が効いた時にそばにいればいいのだ。俺を見つけた女はめろめろになって切ない眼差しを向けてくる。すぐ後をつけよう。……

 (しかし…)
諦めた。踏ん切りがつかなかった。ためらいの理由は気弱な性格というだけではない。まだ二時前だし、訪問先も残っている。そして結局は好みの女ではなかったということかもしれない。
(薬を無駄にした…)


 


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