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惚れ薬
【その他 官能小説】

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果肉甘いか酸っぱいか(1)-6

 仮に二人とも錯乱した場合、3Pなど実際に対処できるのか。行為以前に、効き方にちがいがあったら、時差があったら、様々なケースがあり得る。とりわけ問題なのは優花だけが効いた時である。ケーキの量からすればその可能性は十分ある。そうなったら無理だ。まさか部屋に籠ってセックスなど出来ない。外へ誘い出すことも難しい。
(考えが甘かった…)
用意周到のつもりが穴だらけである。
 思案が思案を呼んでも為す術は見つからない。
俺は口惜しい思いでケーキを食べる二人を見ていた。

 三十分ほどで優花に薬が回る。それだけはまちがいない。彼女は体が小さい上に余分に口にしている。どんな変貌ぶりを見せるのか予想がつかない。俺に抱きついてきたりしたら……。
(退散した方がよさそうだな…)決心を固めた時、電話が鳴った。

 「あら、兄さん、珍しい」
涼子の実兄のようである。
「どうしたの?」
明るく応対した彼女の声はすぐにくぐもった。
「腰なの?それで、具合は?」
話の様子で涼子の母親が骨折したようだと分かった。
「わかりました。これから行きますから。それじゃ…」
受話器を置くと走り書きしたメモ用紙を千切った。
「どうしたの?」
優花が皿に残ったクリームを舐めながら訊いた。
「何、あなた、お行儀の悪い。恥かしいわよ。おばあちゃんが階段から落ちて骨折したんですって。だから病院に行ってくるわ」
「あたしも?」
「あなたはいいわ。ちょっと遅くなるかもしれないから」
ますます諦めるしかない事態になった。
 俺は二人のやり取りを聞きながら帰り支度を始めた。
(こういうこともある。またの機会もあるだろう…)

 ところが涼子は意外なことを言い出した。
「正樹さん、明日お仕事よね」
「ええ…」
「少し遅くなってもいいかしら」
「?……」
「緊急に手術するんだけど、終るのが何時になるかまだわからないの。命に別条はないんですけど、齢も齢ですから。それで申しわけないけど、あたしが帰るまで、ここにいてもらえないかしら。優花一人じゃ心配で。途中で連絡入れますから。どうかしら」
「大変ですね。ぼくは構いませんが、優花ちゃん、一人でも平気じゃないかな」
「あたし、怖い…」
「そうでしょう。だからお兄さんにお願いしてるの。正樹さん、いいかしら」
気のせいか、優花の言い方には媚を含んだ作為が感じられた。薬が効いたのか?でなければ見かけによらずたいした玉かもしれない。……
「ぼくだったらいいですよ。気にしないでください」
異存があるはずがない。渡りに舟、窮すれば通ず、天の助けである。
「優花もその方が安心よね」
「うん…お兄さんがいてくれた方がいい…」
不安げな顔を見せながら、瞳には異様な輝きがあった。


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