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未定第二部
推理リレー小説 - その他

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未定第二部 20

殴るという、原始的で単純な暴力行為はともすれば銃器よりも相手の精神に与える恐怖感は大きいのかも知れない。
鬼神の如きの様相の六錠に対して、その場に居合わせた誰もが恐怖し、まともに反撃すら出来なかった。
多人数でしかも飛び道具を持った男達は、素手の六錠に気迫で飲まれ、次々と拳で粉砕され、血の海をのたうつ。
やがて、六錠の黒い手袋は血で赤黒く染まり、粘液質の赤い滴がぽたぽたと垂れ落ちていた。
その頃にはもう既に敵は戦意を喪失しており、六錠の目線に立つ者は誰一人いなかった。
そこへ、今まで何処にいたのか、健がひょっこりと呑気な顔を出す。
「ありゃりゃ。六錠の旦那、本気モード炸裂じゃないか。赤い拳の悪魔全開だなぁ…」
「健。一体、何処から涌いた??」
俺は驚いた声を上げるが、顔を出したのは健だけではなかった。
「何処から涌いたって、失礼な奴だな…。それより、今は旦那に近付かない方がいいぜ。視界に動く奴見つけたら即攻撃だからよ。ああやって葉巻を一服吸い終わるまでは近付けねんだ」
俺は半信半疑だったが、六錠の尋常ではない様子にやはり近付くのを躊躇った。
そこへ、これまた何処から現れたのかお銀が姿を現した。
「六錠さんの悪魔モード、久々に見たわね。傭兵時代はしょっちゅうあんな感じだったけど、最近は相手もいないんであまり見なくなったもんね」
「六錠って、素手で傭兵やっていたのか?」
「まさかでしょ。詳しい経緯は公主しか知らないけど、結構銃の扱いは上手いのよ」
「俺は傭兵時代は知らないんだけど、なんでも、手前ェのしでかした結果の重みは手前ェの拳で感じなきゃいけねぇ、とか言うらしいんだ。そうでなきゃ、人間でいられなくなるってよ…。よく分かんねーんだけどさ…」
健の言葉に、俺は神妙に頷いた。
六錠はそうやって心のバランスを保っているのだろう。俺も何らかしらの心構えがなければ、六錠のようになってしまうかも知れない。人ごとというものでもないな…。
それはそれとして、やがて、一服吸い終えた六錠は懐から出した携帯用の灰皿に葉巻をねじ込み、今更のように俺達に気が付いた。
「よう、お前達も来たのか…」
汗で額に貼り付いた前髪を、六錠は照れたように後ろへ払い上げた。
「六錠さん達がバイクで派手に暴れてくれたお陰で、ここまでろくに敵に会わずに来られたんだよ」
とは健。
「うむ、まあ、どちらにしても幸いだな。それより、そんな挨拶はいいだろう。ぼやぼやしていると新手がここにやって来るかも知れない。私はここで暫く遊んで行くから、お銀と健はミスターをサポートしてやってくれ」
六錠に言われ、お銀と健は任せてくれと言わんばかりに頷いてみせる。
しかし、六錠は僅かに顔を曇らせた。
「だが、くれぐれも気を付けろ。千葉は仮にも桐山の秘書室長だった男だ。奴は恐ろしい男だからな」
六錠の言葉に、俺は僅かに首を傾げた。
「六錠さんは奴について何か知っているのか?」
「うむ、知っていると言えば知っている…」
問われ、六錠は複雑な表情を見せ、歯切れの悪いその言い方に俺は困惑した。俺が見たな感じ、慇懃で陰気で短気で辛気くさくて、その上性格が悪かったが、ひょろりとしたその体躯からはとても強そうな感じは受けなかった。
「奴は恐ろしい戦法を持っている。…それは、口八丁手八丁、卑怯未練恥知らず、舌先三寸、二枚舌…」
「お、おい、それは戦法というのか?」
「ミスター、卑怯を侮ってはいけない。君のように体格に恵まれたものは意識しないかも知れないが、子供が大人と喧嘩をするときなど、ムキになれば子供はなりふり構わないだろう?大の男ならしないような、噛み付いたり、爪を立てたり、手近にあるものを投げつけたり。それを卑怯と言うかも知れないが、そんなルールは強いものがそう思っているだけのものだ。千葉はある意味先程戦っていた配下の女性達よりも強いかも知れない。くれぐれも気を付けたまえ」
なんだか分かったような分からないような忠告であったが、取り敢えず肝に銘じると言うことで俺達は船の最下層へ向かった。

途中、船倉を通りかかった俺達は、その積み荷に息を呑んだ。武器弾薬、わずかではあるが解体された戦車や戦闘機まで置いてある。
「こいつは、まるで兵器のスーパーマーケットだな…」
俺は驚くとも呆れるともつかない声を出したが、お銀や健はさして驚いた様子もない。
「まあ、ちょっとした闇商人ってとこね」
お銀がつまらなさそうに呟く。
「だけど、戦車や戦闘機まで置いてあるとはな…」
「ふん、よく見なさいよ。全部一時代前の兵器よ…」
「だけど新品だぜ」
「つまりね、他国と張り合って兵器作っても、戦争がなければ使われないのよ。だけどテクノロジーは進んでいく。そうすると未使用のまま退役を迎えるわけ。でもって、後に残るのは時代遅れの兵器群。…でも、人は殺せちゃうのよ。で、勿体ないから欲しい人には安く売ったりするのよ。大概後進国だったりするけど、当然、闇ルートの商取引も存在する。そっちの方が高く売れちゃうものね」

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