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未定第二部
推理リレー小説 - その他

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未定第二部 12

それからどれくらい経っただろうか。俺は不覚にもうたた寝をしてしまった。
寝てしまったのはほんのわずかな時間なのだろうが、テレビのせいで変な夢を見てしまった。
そこは見渡す限り一面の花畑で、俺は怪物として立っていた。その傍らには目の見えない少女が俺の為に花を摘んでいる。少女はどことなく桜子に似ているような気もするが、夢から覚めた今となっては記憶は薄れ、定かではない。
俺は気分を直そうと顔を洗いに立ったが、丁度その時、ノックをする音が聞こえ、千葉の部下が姿を現した。
どうやら出番が来たらしい。
結局、顔に冷たい水を叩きつけただけで俺は洗顔を終え、使用する武器も、特に着替える必要もないのでそのままカジノの特設リングに向かった。
すぐにでもリングに上がるものとばかり思っていた俺は、舞台裏の控え室に連れて行かれやや拍子抜けした。窓からリングの方を見てみると、観客席の中心にライトアップされたリングがあり、そこではまだ先の組が登場ゲートからリングに上がったばかりであった。それは全身に入れ墨をしたマッチョ達磨と長髪の美女で、美女の方は言わずと知れた銀鈴である。
入れ墨男はタイツにサポーター、リングシューズとそれなりの恰好をしているが銀鈴は私服同然、白のミニチャイナでとてもこれから闘うといった恰好ではない。
それにしても、澄まし顔でリングに立つ銀鈴はとても色っぽく、相手の男も股間を熱くし、鼻息が湯気になって見えるほどである。
にしても、お銀に武術の心得があるとも思えないし、仮にあったとしてもここまでの体格差ではまるで勝ち目はないだろう。
負けて酷い怪我をするだけならまだしも、もっと酷いことも起こりうるかも知れない。そして目の前で陰惨な事が起これば寝覚めも悪い。俺は何事かあればすぐにリングに飛び込んでいく覚悟で様子を見守った。
ところが、リングの上のお銀は俺の心配など余所に余裕の表情で、観客に手を振ったり、果ては対戦相手に握手を求め、お手柔らかにと頬にくちづけまでする始末。
お陰でお手柔らかにどころか、相手の男はますますいきり立ち、興奮のあまり目が充血して足下もおぼつかない始末。
やがてゴングが鳴り、入れ墨男が銀鈴に襲い掛かり…と思いきや、入れ墨男は興奮しすぎたのか顔を真っ赤にしてふらふらとリングの中心に進み出、そこを狙い定めたお銀の蹴りが男の側頭部に命中する。
しかし、見たところ大した威力のない、所詮は女の蹴り。入れ墨男にはダメージなど無いはずなのだが、男はそのまま白目をむき、がくがくと膝をついてそのまま失神してしまった。そして、蹴りを放った当のお銀は体勢を崩し、そのまま尻餅をついている。
俺にはまるで訳が分からなかった。はっきり言ってあんな蹴りでは子供でも相手にならない。
狐に摘まれた気分のまま、俺は自分の出番の為にリングへ向かった。
入場ゲートをくぐると出口でガスが吹きだし、歓声に負けないほどの派手な音楽が流れ、カクテルライトが目まぐるしく交錯して俺を照らし出す。
熱狂する観客に反し、俺はさして面白くもなさそうにリングへ上がると、反対方向からは痩せた初老の男が姿を現した。柔道着に黒帯を締め、長髪にいかめしい口髭をたくわえた、いかにも武道家という出で立ちである。
ただ、あまりにも作りすぎていて、胡散臭い感じは否めない。俺は値踏みをするように相手を見たが、本物かどうかはゴングが鳴れば分かることなので、それ以上相手を詮索することはやめた。
やがて相手の名前がコールされ、相手の男が越影と呼ばれ、武器は使わないと言うことは分かった。
はたして、越影は本物か、それともインチキ野郎か。
俺の緊張をよそに、試合開始のゴングが鳴り響いた。

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