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未定第二部
推理リレー小説 - その他

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未定第二部 11

俺は不機嫌な顔でそっぽを向いたが、例によって今泉は感情を露わにせず、穏やかな微笑みを絶やさない。
「はい、皆さん。これで僕達が置かれた立場がはっきりしたと思います。ささ、話し合いを始めますから周りに集まって下さい」
惚けたことを言い出す今泉。一体この状況で何を話し合うって言うんだ?
「さて、僕達は爆弾をくくりつけられたまま格闘大会に出なければなりません。自由を勝ち取るという話ですが、大会が終わる頃にはこの船は目的地に辿り着き、事態は動かしようが無くなると思います。そこで我々は大会に勝ち残りつつ、残されたわずかな時間を使って爆弾を処理し、この船を沈めなければなりません。勿論、今の状況ではどうしようもありませんが…」
「おい、お前。そんな呑気な…」
苛立ち、今泉の言葉を遮る俺。
「話の途中ですよ、鈴木君。質問は挙手をしてお願いします」
って、おいっ!??
「ええ、今の状況ではどうしようもありませんが、幸い僕の弟の葵がこの作戦に加わっていませんでしたので、いずれ助けに現れるでしょう。それと、楽観的ではありますが、阿鈍と寒村を含め、僕達は意外に強いので、大会でそう簡単に命を落とすことはありません。他にも色々我々にに有利な事もありますので、皆さん、気を落とさずに、元気に大会を勝ち進みましょう」
俺達の憂鬱な表情に比べ、一人はりきる今泉。そこへ、一際憂鬱そうな健が手を挙げる。
「はい、何でしょう?健君」
「俺、格闘はそれ程得意じゃないんだけど…」
「頑張って下さい。応援していますよ。さて、他に御質問は?」
今泉の問い掛けに、俺は意見を述べる為に渋々手を挙げる。
「はい、鈴木君」
「張り切るのは良いが、敵の前でそんなにおおっぴらに逃げ出す算段をしていいのかよ?」
「勿論、全然OKです。何しろこれは、僕の宣戦布告でもあるのですから」
そう言って、今泉は千葉の方を振り返った。千葉はわずかに鼻白んだ素振りを見せたが、直ぐに嘲笑の笑みを取り戻す。
「まあ、せいぜい頑張ってくれたまえよ…」
余裕たっぷりの表情を見せる千葉。今泉も嫌いだが、こいつはもっと嫌いなタイプだ。
「さて、話がまとまったところで君達には選手控え室に行ってもらう。招聘選手と同じに立派な部屋を用意させてもらうが、船の中を出歩くことは禁止する。悪いが部屋には鍵をかけさせてもらい、見張りをつけさせてもらうよ。勿論部屋は別々。一人が何かしでかした時点で他の仲間の首がなくなるので肝に銘じておくように…。それでは茜君、案内してあげたまえ」
千葉に促された茜が一瞬躊躇いを見せる。
「失礼ですがボス。本当にこの者達を大会に?女のような顔をしておりますが、この男の腕は…」
「私は差し出口は嫌いでね…。今泉が先程自分で言ったように、港へ着いてしまえば小奴等などさしたる意味を持たなくなる。これはほんの座興なのだよ。さあ、これ以上の議論は無駄だ。それとも君は、私と議論を続けるのが楽しいのか?」
一瞬、千葉の眼鏡の奥の小さな瞳に怒りの火がともる。
「いえ、私の杞憂など些事にしか過ぎません。それではこの者達を部屋へ案内します…」
わずかに息を呑む茜。結局茜はそれ以上は反問せず、俺達は茜や他の兵隊達に伴われてそれぞれの部屋に案内された。
俺達があてがわれた部屋は意外に広く、欧風の家具が並ぶ豪華なものだった。立派なものをと言った千葉の言葉は嘘ではなく、そう言う意味では奴は律儀な奴かも知れない。
ただ、当たり前だが電話機などの通信機は一切無く、武器になりそうなナイフやフォークと言った類の物もなかった。カップやらグラスやらを武器に出来なくもないが、俺一人が行動を起こしたところで他の連中の首が吹き飛ぶだけだ。俺は試合が始まる時間まで行動を起こすのを諦めた。試合になれば外に出る機会が来る。その時にチャンスが訪れるかも知れない。
とは言え、一人こんな部屋に押し込められても退屈で仕方がない。俺はテレビのスイッチを入れた。
電波の関係か、オリジナルのプログラムを流しているようで、流石にピンク映画などは流してはいないが、テレビの傍らに置いてあった番組表を見て俺は絶句した。
「フランケンシュタイン、フランケンシュタインの逆襲、真説フランケンシュタイン、フランケンシュタインの花嫁、フランケンシュタインの幽霊、フランケンシュタインと狼男、フランケンシュタイン対地底怪獣、サンダ対ガイラ、蜜蜂のささやき……」
このプログラムを考えた奴は脳味噌が腐ってやがる…。
舷窓もなく、テレビではひたすらフランケンシュタインがたれ流され、俺は悪酔いしそうな気分になった…。

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