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未定第二部
推理リレー小説 - その他

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未定第二部 13

俺は相手の体格から攻撃が届くギリギリのところまで間合いを詰めていった。男はしかし、構えもせずに視線ばかりを俺の方へ向け、攻撃を仕掛けてくる気配はない。
俺は挑発のつもりで相手の顔面に目掛けて蹴りを放った。防御するか、それとも避けて後ろに下がるか…。
ところが、越影は蹴りのタイミングに合わせて前に出た。タイミングを崩された蹴りに威力はなくなり、越影の頬をかすめた俺の蹴りは難なく相手に捕まれてしまった。
軸足を払われ、俺は情けなくも派手に転倒する。
やれやれ、こいつははったりだけの野郎じゃないようだ…。
俺はのろのろと立ち上がるが、越影は落ち着いた様子で追い打ちをかけてこようとはしない。
にしても、事前に蹴りを放つと分かっていなければああもタイミング良く前に出てこられるはずはない。動きを読まれていたのかそれとも偶然か…。
俺はそれを確かめるためにもう一度蹴りを放った。動きを相手に読まれないように、なるべくコンパクトな動きで。
しかし、越影は同じように前に出て、俺の足を掴み、またも軸足を払う。
打撃はインパクトの瞬間に最大の威力を発する。しかし、完全に振り切れていない打撃にはその半分も破壊力はないだろう。問題はこちらが蹴りを放ってから動いていたのではまともに痛打を喰らうだけである。足が伸びきる前に掴み、勢いを殺すためには事前に相手の動きが分かっていなければならない。いや、たとえ動きが分かっていたとしても果たしてそんなことができるのかどうか。或いは、俺が蹴る瞬間に、何か気が付かない癖でも見せているのか?
ともあれ、正面からの攻撃だから掴まれる。なら、側面から頭部を狙っていけば或いは…。
俺は足を鞭のようにしならせて越影の側頭部を狙った。しかし、越影はやはり俺の懐に入り込み、自分の身体を下方から叩きつけてきた。
俺は勢いよく後方へ転がされた。辛うじて受け身はとるものの、胸板がずきずきと痛む。
「無駄だ。私は先見の極を会得している…」
よろよろと立ち上がりながらも、繊維を失わない俺の顔を見て、今まで黙っていた越影が突然口を開いた。
「どんな攻撃、いや、小さな動き一つをとっても予備運動がある。筋肉のしなり、息づかい、視線の運び、それらから当然引き起こされるであろう動きを先んじて知ることにより、どんな相手の動きも全て封じることができるのだ…」
先見の極などと、随分大仰なことを言ってくれるが、実際こちらの攻撃全てが返されているのは確かである。
俺も喧嘩は強いと思うが格闘となると話は別である。仕事の上でこんなのとぶつかったら一も二もなく逃げ出すだろう。恥ずかしいとは思わないし、リスクはできるだけ避けるのが俺の信条だ。ただ、今回のケースはいかんともしがたく、相手がどんな化け物であれやり合わなくてはならないのがなんとも辛い。
「まあ、他人に見下されるのはあまり良い気分じゃないよな…」
俺はそう呟き、何とか奮起すると、両手両足を振り回して滅茶苦茶な踊りを始めた。
ゴーゴーのようなモンキーのようなパラパラのようなドジョウすくいのような…。
訳の分からない行動だと思われるだろうが、これは俺なりに考えがあっての事なのだ。
しかし…………。
「なんだ、それは?…もしかして動きを悟られまいと、予測不可能な行動をしている…とでも言うのか??」
越影にあっさりと考えを見抜かれ、俺の踊りは止まった。そしてあとには恥ずかしさだけが残る。
「まさか、本当に…」
や、やめろ、その人を蔑んだ目をするのは…。
顔面に体中の血液が集まり、顔から火を噴き出しそうなくらいに恥ずかしい。
「ええ〜〜い、今のただのウォーミングアップだっ!!!」
俺は照れ隠しに叫ぶや、恥ずかしさを隠す為に、無我夢中で相手に蹴りを繰り込んだ。

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