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狼たちの挽歌
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狼たちの挽歌 3

「お前等、煙草でも買ってな。ちょっとコイツと二人で話がしてぇ」
低く渋い声。その声には有無を言わせぬ迫力があった。
これが一流ってやつか…。





そして広い楽屋は、俺と猛の二人だけとなった。

「おい、若ぇの。名前は何ていう?」
「…鈴木誠三郎」

猛がズズっとお茶を飲む。それだけの動作に、何故か俺は猛から目を離すことができなかった。

他人の目を自分に向けさせる。注目させる。
きっとこの男は、そういった技を培ってきたに違いない。


そんな男が、俺と、差しで話があるってか。やっぱ、どやされっのかな…。
「さっきのお前の自分の捨てっぷり、見事だった」
「え?」
「そもそも手淫なんて誰でもしてることだ、そしてお前は客の前でありのままの自分を見せた。誰にでもできることじゃねぇ」


あれ?俺もしかしてすげえベタ誉めされてんじゃねえ?

「いいか、誠三郎」
猛が座り直す。その姿がまた、堂に入っているというか、かっこいいのだ。

「芸人ってのはな、野球の選手と同じでよ。直球、変化球投げ分けて相手に向かって行くもんだ。
わかるか?つまるところ変化球ってぇのは技術だ。後から付いて来るもんだが…直球はそうはいかねぇのよ。オギャーと生まれたその時に、速さとか重さとか、もう決まっちまってんだ」

言いたいことがわかるようなわからんような……。

「お前ぇはオイラが観てきた芸人の中で一っ番の直球を持ってる、って、あの芸を観て思っちまったのよ」

…マジかよ…。

「だがな」
一旦言葉を切った。

「その直球を活かすための緩急がねぇ。つまり、頭が足らねぇ」
「はぁ…」
「コンビ組みな。漫才やれ。お前ぇにはキャッチャー…いわゆる突っ込みが必要だ」


俺が誉められてる…笑いのことで、他ならぬ『世界の猛』に…
アドバイスまでもらって…

死んでもいい…

「話はそれで終わりだ。また会おうぜ」

ビックになりな、次に会うのはそれからだ!てことか…。


か・ん・ど・おおおぉぉォォッ!!!

「あ、あ…ありがとうございましたァ!!」
俺は楽屋を飛び出した。一秒でも早くビックになって猛さん…いや、猛師匠にお礼しなきゃ!

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