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狼たちの挽歌
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狼たちの挽歌 13

「さて…始めるか」
「…何をだ?」
「自己紹介だよ。お互い名前も知らないだろう」
言われてみればそうだ。俺は名前も知らないような誘いに乗ったのだ。
今更ながら、事のギャンブル性に気づく。
「俺は岸野。岸野隆志(タカシ)だ。老けてみられるが、これでも23だ。ちんけな詐欺で捕まっちまったが、まぁ刑期はあと一年ってトコだな」
よろしくと言って岸野は握手を求めてきた。俺が応えると、思いの外強い力で握ってきた。
詐欺で捕まったと言っていたが、単なる頭でっかちというわけでもなさそうだ。
「鈴木誠三郎だ」
それだけ言うと、俺も強く手を握る。
コンビを組んだそうそうに主導権を奪われるわけにもいかない。
ヤクザもんはこういうところが面倒だ。

俺たちはじっくりと、時間をかけて握手をかわした。


「自己紹介はこれくらいにしてだ…」
握りあってから十分ほど経って、ようやく岸野の方から手を離した。長い時間力んだせいでお互い無駄に体力を消耗していた。

「早速役割決めといこうじゃないか」
つまりはボケとツッコミを決めようということだ。
言うまでもなく俺はボケだ。岸野がなんと言おうとこれだけは譲れない。
あの日の夕日に二人で誓った、猛さんのためにも…だ(注:若干の脳内補正あり
だが、コンビ発足そうそう変に揉めたくはない。ここは…

「俺の希望としてはだな……」
岸野が口を開く。

ツッコミって言え、ツッコミって言え、ツッコミって言え、ツッコミって言え、ツッコミって言え、ツッコミって言え、ツッコミって言え…




「絶対ボケだ」
ファーーーーーーーーーーークッ!!!!


頭を抱える俺に何かを察したのか、岸野の顔が曇る。
「なんだ、お前もボケ希望かよ…。でもま、しゃーないな。お前がなんて言おうと俺はゆ……」
気づくと俺は岸野の胸ぐらを掴んでいた。
「お前…そっから先は俺のせりふだ…」
ふっと岸野のチャラけた雰囲気が一変する。

「あ?テメェ人の胸ぐらで何ほざいてんだ、コラ?」
「譲れねーんだよこれは。俺がボケで成功するのと、世界で一番面白い芸人はビートゥ猛さんってことはな…」
「テメェ…」
岸野の体から殺気が登りたつ。

「世界で一番面白いのは………タウンタウンの松っちゃんだろがーーー!!」
(注:漫才コンビ、タウンタウンの松下こと松っちゃんは、その独特の芸風で、若い人達から熱烈な支持を集めているのだ
 
ドグシャアァ!!

腰の入った右ストレートが顔面を打ち抜き、勢いで背後の壁にたたきつけられたその瞬間、俺の中で何かが砕けた。


「…あんな邪道芸人が世界一だと?頭おかしいんじゃねぇか、お前」
俺はゆっくりと立ち上がる。
「んだと貴様ぁ!も一遍言ってみろォ!!」
「何度でも言ってやるよ。芸の王道は猛さんで、世界一も猛さんだ…」
「……コロす」
岸野の拳が再び顔面に到達する前に、俺のボディがやつの水月をえぐる。苦しさでやや前のめりになった顔面を、刹那に蹴りあげてやった。

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