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なつらぶ!
その他リレー小説 - コメディ

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なつらぶ! 6

おそらくもう会えない、のだろう。
あの豪邸からこの公園までの道なんて覚えてないし、なにしろ歩きだと遠過ぎる。
どう考えても…接点が無い。
「(やめやめ…とりあえずこれからどうするか考えよう)」
彼女についていけば今日は凌げると思っていた計画が破綻したんだ。
「(次の手を考えよう…)」
その時だった。
カツカツと足音が聞こえ、それが俺の近くで止まった。
「(また誰かに絡まれんのかな?)」
そう思っていたぶん、聞こえた声に驚いた。
「繰亜…くん……」
「あ?」
目を開け、声の主を見てみると……今日、なつと一緒に乗っていた車の運転手だった。
「繰亜くん…だよね?」
「あ……はい…貴方は、確か運転手の…」
「そう。よく覚えていてくれたね…私は津波家で運転手をやっているものだ」
その初老の男性は笑顔など見せず、それは彼女との出会いとはまるで正反対の出会いだった。
とりあえずベンチにちゃんと座り、運転手さんのスペースを空ける。
「……君は…優しい人間なんだね…?」
「え…いや、普通じゃないッスか?」
「いいや、あれだけの仕打ちを受けておいて津波家に関わりのある私に気配りが出来るのは君が優しい証拠だ」
その時、運転手さんは少しだけ笑みを浮かべ、俺の隣りに座った。
「……痛かったろう?」
「え…は、はい…まぁ、慣れてますが…」
「あの父親も酷いことをするもんだ。何もここまでしなくてもいいだろうに……」
俺の痣を見つつ、運転手さんは話を切り出した。
「お嬢様はあれからな、部屋に閉じこもりっぱなしだ」
「そう…ですよね…」
「ときに…君は本当の彼氏なのかい?」
「いえ…違います…」
「やはり、そうか。車の中の会話からはそう思えんかったからな。しかしお嬢様がそう言うならもしかして、と思ったのだが…」
「……すみません…」
「いや、謝らなくていい。どうせお嬢様が無理やり言ったのだろう?あの娘は昔から行き当たりばったりだったからなぁ…」
わりと酷い言葉にも、優しさが込められていた気がした。
「しかし今回ばかりはいけなかったな。琴線に触れてしまったとでも言うべきか」
触れてはいけない部分を行き当たりばったりで解決しようとしてしまった。
「まぁ…父親の気持ちも分からんでもないが、もう少し穏やかにも出来たはずだ。おかげですっかりお嬢様は……」
運転手さんは悲しそうにそう言うと、こちらを見ながら俺の肩を叩いた。
「お嬢様に……会いたいかい?」
それは、待ち望んでいた言葉。
運転手さんが俺の元に来た理由はこれであった。
でも確かめなければいけない。
「その前に一つ。何故…もう一度会わせようと?」
「もちろん、お嬢様の心の雲を晴らすことが出来るのは……君だけだからだよ」

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