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家族の絆
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家族の絆 16

げしっ…
「痛いって!!」
「うるさい」
このアホな兄弟がギャアギャア叫んでいる部屋の隣りでは、静かに話し合いが始まっていた。

「隣り…騒がしいね」
「うん……」
「それで…私のこと…好きになったの?」
「うん……」
冷の顔が彼の名前には似合わず赤くなる。
また普段なら静香もこう言った話題は苦手である。しかし今は自分が年上ということで、彼女なりに頑張っている。
「私が…晃と付き合ってるのは…知ってる?」
「うん…」
「それでも…?」
「うん…」
彼の決心はとても堅く、そして無謀だった。
「…ありがとう。冷君の気持ちは…とても嬉しい。私は…冷君のこと…好き。でも…冷君が思ってるような好きじゃ…ないの」
「うん…」
「…ごめんね。私は…晃が好きだから」
「うん…」
「ごめんね…」
「大丈夫…ありがとうございます…」
冷は一回会釈して部屋から出た。

冷君が暖の部屋に来て入れ替わりで俺が俺の部屋に行く。
擦れ違った冷君の表情は無表情で…どんなやり取りがあったのかは分からない。
ただ…部屋に入ると静香が俺のベッドに座り、俯いていた…。
「…静香…?」
「…晃……」
「大丈夫…か?」
「ちょっと…ダメ」
「そうか…」
無言で静香の隣りに座る。
するとすぐに静香はこちらを向き、泣き出した。
「私…っく……冷君に…酷いことをっ…!!…っひ……」
「………静香」
「こうなるのは…っ…分かってた…けどっ……!!」
「でも…選ばなきゃいけないから…」
「晃…………」
「二人…っていうのはダメなんだ。必ずどちらかが悲しむことになる。ありがとう…俺を選んでくれて…」
「……っ…………!!」
声をあげて泣くことは許されない。隣りの部屋に聞こえてしまうから。
優しい彼女には悲しすぎる選択。
ましてや…悲しませる相手が、小さい男の子だとしても。
晃は彼女を優しく抱き締める。今まで一番…強く…そして優しく……。

「どうだったの…?」
「………失敗」
「だよなー…静香姉ちゃん、兄ちゃんにラブラブだもん」
「……そう」
また二人はゲームをする。暖は八つ当たりされるのを避けて、格闘ではないレースゲームを選んだ。
「泣かないのー…?」
「なんで…?」
「悲しくないの?」
「……少し」
「ふーん…僕は泣いちゃったけどなぁ」
暖は恥ずかしそうに言った。
ここで冷は気付いてしまう。
自分の覚悟はそんなもんだったのか…と。
途端、自分が人間として暖より子供のような気がした。
「………………」
「ああっ…負けたー」
「……帰る」
「え…?まだ三時だけど…?」
「用事があるから…じゃあまた」
彼は三上家から出た。

帰る途中、彼の頬は濡れていた。
それは彼すらも気付かないほど、微弱なものだった。
しかし…決しておかしくはない。彼は彼女のことが好きだったのだから……

「ういーす」
「おう」
「今日も晃君はカッコイイネェ」
「何もあげねーぞ」
「俺がハイエナみたいじゃねーか」

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