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柳沼隼人の場合〜人食〜
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柳沼隼人の場合〜人食〜 2

イライラしながらも、震える指先でページをめくる柳沼。努めて冷静になろうと小説に目を走らせるが、とても没頭できるような状態ではなかった。怒りのあまりこめかみに知らず力が入り、熱い血がずきずきと血管を膨張させる。考えまいとしても裕子の裏切り行為が脳裏をよぎり、どうしても頭を離れない。
柳沼は一回大きな深呼吸して小説を集中して読んだ。柳沼が読んでいる小説の題名は『異常〜井川須美子の場合〜』である。内容は普通の小学6年生の井川須美子が家庭でのストレスや学校でのいじめにより精神異常をきたし最後には同級生を殺害すると言う内容だ。
「………」
実を言うとこの小説は裕子が柳沼の家に忘れていった物だった。柳沼は怒りの中この小説を流し読みしたがなぜか柳沼はこの主人公に賛同できた。

抑圧された人間の精神状態というのは、言うなれば外部からのストレスによってはち切れんばかりに膨らんだ風船の様なものである。通常、人間はそのストレスを回避する為に代替作用として買い物やアルコール、暴食と言った具合に逃避行動に出る。小さく口を広げてやって、中の空気を抜くという作業だ。ところが、まれにこの空気抜きが上手くいかなくて精神に破綻を来す者がいる。いわゆるノイローゼというやつだ。
柳沼は小説を閉じ、この井川須美子について考えた。この女の子は実際にいるはずがない、所詮空想上の人物だ。だが柳沼はこの井川須美子のを他人とは思えなかった。空想上の人物にだ…
「この主人公…小学校の時の俺みたいだな…」
柳沼には人に言えない…そして二度と癒えない心の傷がある。
その傷についてはあまり人に話をしたことはないが、柳沼の心の中でじくじくと血膿を吐き出し続ける癒えることのない傷であった。それが柳沼の性格を歪めてしまったと言っても過言ではない。今のように内向的になったのも、女性と、いや、人と深く付き合うことを避けるようになったのもそれのせいだ。

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