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密室にて
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密室にて 7

ダメだ。こいつには何も通じない。女の長くて汚い爪の間に俺の足の肉が掻き毟られていくのをじっと眺めた。・・・繋げることができなくなるじゃないか。そんなに断面を掻き毟ったら、たとえこの状況から抜け出せても、手術しても繋げられないだろう。
いや、それ以前に今、この世界に俺と女のほかに生きている人間はいるのか?少なくともこの病院は奇妙なほどひっそりとしている。警官たちがあれだけ大量に殺されたというのに、駆けつけてくる応援部隊もない。
もしも、夢だとしても悪趣味だ。現実のかけらも無い。俺はこんな状況、夢でもごめんだ・・―ズルズリュ・・・女が俺の足だったモノから血管を引きずり出した。動脈?静脈?結構綺麗に取れたようだ。もう手術でも腕の良い医者でも、もとには戻せないだろう。まあ、彼女なりに丁寧に扱っているのだけが救いだ。女は足の肉に飽きたらしくまたチェーンソーを構えた。「次は次はどこにしょう?どこもかしこも魅力的!そうね誰も来ないわ来ないの?だって病院は死体が山盛りと決まっているわ!すごく素晴らしく清く美しい愉しい恐ろしい?」
「・・・笑える」
俺が呟くと女はびっくりしたように動きを止めた。
「・・・ワ。らえる?」
「どうせ俺はもうすぐ死ぬんだろう。ある程度麻酔だか駆血帯だかでショック死や失血死を止めてるんだろうが、腹もグチャグチャで死ぬのは時間の問題だろ。笑える。ちょっと体を起こしてくれよ。お前看護師なんだろ得意だろ。死ぬ前に風景が見たいから」
「シヌ。フウケイ。・・・看護師。私は看護シ?」
俺は腹を括っていた。括る腹からは肉が溢れているが。たどたどしい操り人形に戻った女は妙に従順で、そそった。
女は動いてないチェーンソーを床に置き、どこか気の抜けた顔で俺の上半身の拘束具を外した。「ワタシ・・ハ看護師・・ケガしたヒトに・・ヤサシクしなきゃ・・。」女は拘束台を上手く使い俺を起こした。これが病室の白いベットなら、さながら白衣の天使って所か。実際は血肉の部屋の拘束台だ。おまけに、血やら何やらでまだら模様の看護服を着た人形っぽい看護師付き。―はたして笑って良い状況だろうか。女は相変わらずぼんやりしている。「・・・イタい所は・・アリますか・・?」
「行きたいところならある。病室の外へ出してくれ」
「ハイ。車椅子を持ってきます」
女はゆらりと動いた。警官の死体の一部でも踏んだのが、耳の奥に残るいやな音がした。
「輸血。点滴?麻酔、血液型」
ぶつぶつと呟きながら部屋を出て行く。開け放されたドアから風が吹き込んでくる。思い切り新鮮な空気を吸い込もうとして、俺は吐きそうになった。異様な腐臭だった。
女はしばらくして医療器具を携えて戻ってきて、手際よく車椅子に俺を移し止血や注射、輸血をした。俺はその間ずっとえずいていた。
「では、外、に行きましょう」

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