ミンナ生カシテアゲル 19
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アイツの仕業だろう、頼んでもいないのに勝手にTVが点いた。
モニターに四分割のカメラ映像…リモコン操作してみると、それなり全域カバーしてあった。
設置がどことなしちぐはぐなのは、多分アイツが仕掛けたのと元々の設備、両方だからか。
細かい所は使い魔でも使うんだろう。
アイツは万能の魔術師気取りだけど、実際はこうしてストーカーの延長線に過ぎない。
拾い物の力で色々と勘違いした素人、放っておけば自滅する。
丁度今映ってるモニターのひとつに、赤城奈都と加賀真吾らしき姿があった。
ご苦労だこと。
※
僕は赤城さんに断りを入れて、トイレに行く事にした。
無論、僕は赤城さんの失禁どうこうには触れはしなかったが、少々複雑な表情で承諾された。
早く済ませたい所だが、まずは安全確認。
廊下の角でスパイ映画さながら行先を確認する。
異常無し。
「カカシ君」
「うわぁ!」
心臓がちょっと止まった気がする。
赤城さんだった。
「保健室で待ってるんじゃなかったの」
赤城さんはモジモジして、
「一人じゃ心細くて」
と伏し目がちに言った。
「わかった。じゃあ一緒に行こう」
と言っても、トイレはすぐそこなのだが……。
トイレ入口で聞き耳を立てた。
音はない。
さらに、中に入って個室を1つずつ確認。
なにもいない。
そこでやっと一息つき、僕は小便器の一番奥を陣取った。
廊下から「カカシ君、大丈夫?」と奈都が消えそうな声をかけてくる。
「え、うん。こっちは大丈夫」
若干困ったが、返事を返す。女の子と話ながら用を足すのも変な気分だ。
それでも途切れることなく奈都は話しかけてきた。暗い廊下で一人でいるのが不安なのだろう。
だったら、保健室の方が気が休まると思うのだが……。
結局、ずっと話ながら用を足す羽目となってしまった。
用を済ませた僕は、トイレの小窓から何気なく外をみた。
月明かりがぼんやりと校庭を映している。
遠くに鉄棒やブランコが見えて、昔のままのそれが懐かしかった。
その隣には、プールがある。
そう言えば、夏に骨折したせいで、3年生の夏はほとんどのプールに入れなかったっけな。
そんな記憶が甦ってくる。
と、そこで何かが動いていた。
月の光が水面で乱反射して分かりにくいが、気付いてしまえば誰かがいるのは間違えなかった。
「赤城さん。ちょっと来てくれないか!」
「どうしたの?」
「プールに何かいる」
さっきのマネキンの様な、得体の知れない物の可能性もあるので、“誰か”ではなく“何か”と言いかえた。
赤城さんは男子トイレへの抵抗感からか、ひょっこり顔だけ出して「しつれいしまーす」と申し訳なさそうにしていた。
「あれ、何だと思う?」
僕が窓の外を指差すと、赤城さんは窓際まで来て目を凝らせた後、
「ヒト……じゃない?」
「やっぱりそうかな……」
「何してるんだろう?」
「プールサイドに上がりたいんじゃないかな?」
丸々したシルエットも重なって、“それ”は、まるでセイウチが陸に上がるのに失敗している様で滑稽だった。
「どうする?」
僕は言葉少なく赤城さんに聞いた。
※
「どうするって?」
奈都はカカシの言っている事が分からなかった。
「あれを助けに行くべきか」
カカシが続ける。
「あれ、誰なの?」
「わからない」
「わからない……って。これが罠で、アイツの使い魔とかだったらどうするの。それに……」
と言って、奈都はプールまでの道順を想像した。方法は少ない。
「運動場を堂々と通るか、せいぜい学校の塀伝いに隠れた気になって行くしかないんだから、アイツらに見つけて下さいって言ってるものよ」
「確かにそうだけど。赤城さん、ルール1を覚えてる?」
「なんだっけ?」
「『生存者7人で協力して殺人鬼を倒すこと』」
奈都はメールを確認した。確かにそう書かれている。