ミンナ生カシテアゲル 20
「つまり、仲間は多い方がいいと思うんだ」
「でも、今のカカシ君の足じゃあ、アイツらに見つかったらほぼ終わりよ。それだったら、やっぱりちゃんと手当てした方がいいと思う。それから助けに行ったらいいじゃない」
「それまでに“あれ”が殺されでもしたら、元も子もない」
「じゃあその足で、もしアイツらに会ったら、逃げ切れるの? こっちは武器らしい武器もないのよ。それに私は一回アイツと戦ったけど、正直言って武器を持ってても勝てる気がしないわ」
カカシは正義感が強い。しかしそれは、このゲームでは命取りになる気がする。
奈都は少し不安感を覚えたが、それでもカカシは頼りになる人だ。
だからもうこれ以上は言わず、彼に判断を任せようと思った。
カカシは唇を噛み締め、ジッと考えているようだった。
※
僕は通報覚悟で猟銃を持ってくるべきだったと後悔する。
てけり、てけり。
そんな中、何だか珍しい鳥のさえずりが聞こえた。
もうそんな季節、いやまだそんな季節、兎に角今はそういう季節なのだろう。
てけり、てけりり。
僕は猟銃免許こそ取ったが、実際は農家のカラス退治と射場での練習ぐらいだったな、などと考える。
てけりりり。
僕はそのさえずりに、寧ろ冷静さを取り戻していた。
プールのトドが味方かわからないし、使い魔の戦力もわからないが、行くしかないと決意した。
てけりりり、てけりりり…。
僕の隣では赤城さんがキョロキョロ辺りを見回し、パチクリと瞬きを繰り返している。
彼女が無意識に疑問や不安を表現する癖…それは既に警報とまで呼べる程『何か』を示していた。
てけりりり。
僕は赤城さんの無事…豊満なバストに成長した同級生の無事という安堵から注意力を欠かしていた。
てけりりり…。
猟友会の講習で教わった範囲、この界隈でこんな鳴き方をする野鳥・害鳥はいない…。
てけりりり…。
仮に珍しい外来種としても、こんな場所に紛れ込んでいる事自体が何かの異常事態だろう。
てけりり…。
そもそもコイツは鳥なのか、そしてどこに隠れている?
僕は赤城さんを孤立させまいと、安全確認も途中で切り上げてしまった事を今更後悔した。
実際僕が防犯訓練で教わった不審者・不審物チェック項目の半分もこなしていない。
確かに個室は全部調べたけれど、用具入れはどうだったか?
天井の通風口か…まさかの火災報知器やスプリンクラーに潜り込める程の大きさか?
それとも床の排水溝か?
いやまて…
男子トイレで自然なだけに盲点、子供の背丈に合わせてあるだけに、確認を怠り易い高さ。
ここはスーパ・マーケットじゃない、小学校だ。
そして赤城さんは女子トイレにはない違和感から『そこにいる』と、気付いたのだろうか。
一点を凝視する彼女の瞬きは何かの病気か怪我の類ではないか。と疑う程に激しく警報を示す。
「何あれ…黒い…スライム…?」
やや遅れて赤城さんの絞った声、震える指先とLEDペンライトが『コノ世二有ラザルモノ』を示していた。
あれはいったい、なんなんだ?
「てけりり!」
※
そいつは出入り口側近くの小便器に潜んでいた。
カカシが必要以上の警戒心や焦りから、そちら側を選んでいたらどうなったか。
トイレの並び順は奥から詰めて使う、マナーの刷り込みがなければ、どんな目に遭わされた事だろう
奈都は『なんだスライムか』とばかり、その異常さに寧ろ頭が追いつかないのか、逆に安心して構える様子が全くない。
DQやFFばりの主人公補正が入れば、青銅のなまくら剣どころか、ひのきのぼう一撃で撲殺出来る相手だろうが、カカシ達はそんな能力を持ち合わせていない。
カカシは油断なく先制攻撃と様子見を兼ねて、奈都がスライムと呼んだそいつに、手近にあったバケツを投げつける。
がすっ!
…という軽快な金属音を立てて、バケツが空中で制止した。
いや違う、厳密には串刺しにされたのだ。
黒いスライムは身体?の一部を1m少々の槍状に変化させて、バケツを貫いたのだ。
そこでようやく奈都の脳内からスライム最弱モンスターという先入観が拭い取られ、明確な殺傷力を持った『敵』を認識した。
「てけりり!」
「嫌ぁあああ!」