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ミンナ生カシテアゲル
その他リレー小説 - ホラー

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ミンナ生カシテアゲル 12

映画の脇役めいた地味さが、なおさら拳銃らしく見える拳銃。
その5〜6mm程度の小さな銃口を目の前に、ああ撃たれるのかなと奈都はボンヤリ自覚していた。

「.22口径だから傷口は小さいよ、後で『演出用』の死体に使うならそん時ぐちゃってするけど。」

奈都はアイツの非人道的な発言にもふんふんとうなづくだけだ。
アイツはやや退屈な仕草で、ガスマスクの下で軽薄な微笑を浮かべながら奈都の額を照準した。

ばんっ!

いささか乱暴な破砕音が夜の廊下を貫く。

銃声、いや違う。

アイツはリボルバーを取り落とし、横合いからぶつかってきた何かを振り払う。
それは何者かによってブチ破られた、教室の戸板であった。

「そこの『おもらし』とっとと逃げろ。」

低く小さくかすれているが、なぜかよく響く声。

不躾でデリカシーの欠落した物言い、大声でもないのに根暗で陰気な響きのせいで却ってよく聞こえる声質。

「だれよ、しつれい
、ね。」

兎に角、不快指数の上昇する声で、奈都は幾らか正気を取り戻していたが、身体の調子はまだ戻らない。

「ああ琢也君、起きてた…」

アイツが軽口を叩き終わる前に、琢也君と呼ばれた人物は、もう一枚の戸板を蹴飛ばしてくる。
二度目は喰らうまいとアイツが身をかわすと、床に叩きつけられた戸板の小窓が砕け、これまた耳障りな破砕音を立てる。
そして彼の視界から拓也が消えた。

「え?」

琢也にしてみればほんの少し身を屈めた程度の動作であった。
彼は成人しても身長160cmあるかどうかという小柄な部類であった。
そしてアイツ、殺人鬼はガスマスクを着けたままで、多少視界が狭まっていた。

死角からの鋭いローキックに殺人鬼が転倒し、その身に更なる蹴りの乱打がめり込む。

奈都はまだ調子の戻らない身体がもどかしかった。
先程の会話?からして琢也は眠らされていたのだろう、
しかもガムテープか何かで後手に両手を縛られている。
故にアイツを取り押さえたり銃を奪う等の選択が出来ない。

奈都は彼が七人の誰だったか全く思い出せないが、それなりに鍛えている人物であると同時に、むしろ殺人鬼よりも凶暴に見えた。
琢也は暗く静かな怒りの表情でアイツを蹴り回し続ける。
あの常人とは思えぬ殺人鬼を相手に、である。

しかし琢也の不運もまた、どこか常人離れしていた。

「あ…。」

建て付けの悪い床が傾いているのだろう、奈都の作った水溜まりが流れてゆく。
正に琢也の足下、しかも蹴りの軸足に向かってだ。

両手を縛られてバランスが悪い上、なまじ鍛えた人間の蹴り。
故に奈都が危険を知らせる間もなく、受け身ままならぬ琢也の転倒で形勢は逆転した。

「琢也くぅ〜ん、ダメだよ寝てなきゃ?」
「ぐぬぅ…。」

対してアイツはあれだけ蹴られてダメージを負っていないのか、マット運動の様に飛び起きてみせる。
そして壁に設置された小さな鉄扉、鍵は職員室に云々と記された、ダストシュートの南京錠を引き千切る。

「という訳で琢也君、ぼっしゅーと!」

殺人鬼は意識朦朧でもがく琢也を片手で抱え、ダストシュートに押し込んだ。

打撲音と摩擦音、それに混じって苦悶の呻き、それが序々に遠ざかり、最後にドサリという落下音。

「大変だぁ!琢也君が落っこちて死んじゃったぁ!」
「この、ひとで、なし。」

何となく陰気で根暗な上に粗暴で感じの悪い男。
奈都の記憶にいまいち残っていない、思い出せない範囲の男。
そして奈都を助けに来た訳でもなく、アイツを恨んで暴れて返り討ちに遭った男。

だからといって

死んでいい道理がどこにある

「桐灰琢也君、腐っても元自衛官だったなぁ?敬礼ッ!」

アイツは人死に笑い事の低俗アニメ並の倫理観で、人を殺しても名調子の軽口を続けている。

「去年喧嘩でクビになったそうだけど?退職後も名誉の戦死で二階級特進ってあるのかなぁ?」

沸き上がる怒りが奈都を奮い立たせた。

奈都は自らの小便で濡れた何度も滑っては倒れて身を汚し、立ち上がろうと気力を振り絞る。

寝起きの金縛りを無理に振りほどくのと似た激痛…知るか!。

「あれ?琢也君まだ生きてるし?不死身かよ?」

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