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ミンナ生カシテアゲル
その他リレー小説 - ホラー

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ミンナ生カシテアゲル 11

奈都はトリガーに不自然な抵抗を感じたが、人差指を思いきり握り込む。
彼女が中高生頃か何年も前に(名目は痴漢対策で)購入し常時携帯していた代物。
錆び付いていたか単なる操作ミスか、多少の不具合はあったが催涙ガスはアイツをとらえていた。

「!?」

アイツは大げさな程に顔を押さえ、悲鳴も出せずにうずくまる。
騙し討ちどうこうと言っていられない(銃を捨てれば撃たないとも言ってない)。
殺人鬼相手にまっとうな喧嘩を挑む程、奈都もお人好しではなかった。
実の所…奈都の調べた限り、本物の銃でもそうそう殺し切れない相手なのだ。
その為に用意した切り札を左手に握り絞め、奈都は自らが撒いたガスの残り香に軽くむせかえりながら殺人鬼に駆け寄って切り札を叩きつける。
切り札、というかそれは、文字通りの『札』であった。

奈都の掌に、叩きつけた御札とアイツのポンチョの布地越し、頭髪や頭皮の体温だろう生々しい感触が伝わって来た。

いかにもここいにるのが『人間』という感触。

この人でなしの人外めいた殺人鬼も、一応は人間なのだろう。
奈都はそいつを『始末』しようとしている。
彼女は人殺しに人殺しを仕掛けている。

厳密には御札の効果で殺人鬼が消滅するのか封印されるのか。

少なくとも彼にとってロクな結末ではあるまい。

今更ながら奈都には果たして本当にそれが最善の選択なのか、わからない。

奈都が悪寒と吐き気を伴う罪悪感に苛まれる中、御札が青い燐光を放つ。
罪悪感だけではなく、常人たる彼女が人知を越えたオマジナイの御札が心身を蝕む。
オマジナイというのはそういう物、軽々しく一個人が触れるべきではない、神か悪魔か宇宙的な狂気。

たかが一枚の御札の生み出す陳腐な手品めいた、小手調べ程度の現象だけで既に、奈都は丸一日大荷物を抱えて歩き回ったかの様な疲労感と脱力感に苛まれていた。

やがて青い燐光が、小さな楔(くさび)状に変化し、奈都の腕を押し戻して来る。

左の手首が折れそうな圧迫感、奈都は用済みの催涙スプレーを捨てて右手を添えるなり、押し返す。

『生カシテオイテアゲル』

あの二十五名の死亡者を出したオマジナイ、その生存者七名に奈都達を選んだオマジナイ。

その呪縛から逃れる代償がこの程度の苦痛ならと、奈都は覚悟を決めた。

兎に角、意志を保つべく、カッと双眸を見開いた。

刹那。

奈都の掌に、薄手の陶器かガラス素材が割れる、硬質な衝撃。

青い燐光が平たく潰れ、オーバーヒートを示すかの様に赤く変色し、砕け散った。

同時に御札もボロボロと、燃えつきた灰の様に崩れてゆく。

しばし辺りを支配していた静寂、それはいとも容易く破られた。

「ねぇナッちん?君って普通に人の話聞いてれないの?」

アイツは前と全く変わらぬ様子で軽薄に、ら抜き言葉を交えて語り始め、対して奈都は声が出なかった。

「まぁ現状から話すとね、ガスも御札も効いてなかった訳。」

奈都がアイツの頭に乗せていた手がだらりと滑り落ち、続いて両膝が崩れ、尻をつく様にへたり込む。

奈都の座り込んだ目の前にガスマスクを被った顔、薄手の簡易型だが市販の催涙ガスに耐える程度には十分だった。
アイツは今までフードで隠していたのだ

「他にも催涙スプレー持ってきてる子がいたからさ、職員室の防災用品から持って来た訳。」



茫然自失となった奈都が、しめやかに失禁していた。

「あとあの御札ね、ネットとかで調べたんだろうけど未完成、失敗作だから。」

恐怖や絶望といった精神的ショックに加えて、オマジナイでの過負荷による体調異常。

「でも『おもらし』ぐらいでよかったね、術でエネルギー使い過ぎて廃人とかあり得るんだよ?」

奈都はボンヤリ話を聞きながらふんふんとうなづいていた。
それよりも下着ばかりかスカートや冬物のタイツまでが小便を吸って、むず痒い。

「いやダメか、ナッちんゲームオーバーって事ね?」

アイツは床に放置していた銃とマガジンを拾い組み合わせる。

「女の子一人にKG9で蜂の巣はセンスないかなぁ。」

アイツはKG9と呼んだ多弾ピストルをポンチョの内側に仕舞うと、代わりに細身のリボルバーを抜いた。

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