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後ろの人
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後ろの人 5

  「…こっちへおいで」

ふいに後ろから声がした。
私はそちらを振り向く。
振り向いてはだめだと心のどこかが制止したが、体が意志に反して勝手に動く。
神社の本堂の扉が、開いていた。
そこにだれかいる。
私は、声の言うままに、そちらへと、向かった。

  「だめ…」 

また後ろから声がした。聞き覚えのある声。
今度は私は、私の意志で振り向いた。
そこには、妹がいた。
妹は水色のワンピースにピンク色の花が付いたサンダルを履いている。昔、川に遊びに行って夜になっても帰って来なかった妹。服装がその時のままだ。もう十年前の事なのに。その妹が悲しそうな顔をしている。「・・・そっちに行っちゃだめだよ。お姉ちゃん。」囁くような言い方だけど強い意思を込めて妹が言う。「お願いだから、そっちに行かないでよ。・・・お姉ちゃんだけは私のようになって欲しく無いの!」
その言葉を聞いて私は妹の方に向かう。「―っお姉ちゃん!」妹の声がした。私の後ろにある本殿から。私は振り向く。そこにも妹がいた。前にも、後ろにも妹がいる。違うのは、本殿の妹は麦わら帽子を被り嬉しそうに笑っている。石造りの通路にいる妹は、帽子を被っていなくて悲しそうにしている。帽子を被った妹が言う。「お姉ちゃん、こっちにおいでよ!遊びに行こうよ!」とてもはしゃいでいる。石造りの通路にいる妹が言う。「行かないでよ・・・お姉ちゃん・・・そっちはだめだよ!」今にも泣きそうだ。私はどちらを信じよう?
私は一瞬躊躇った後、足を本殿のほうへ向けた。
本殿のほうの妹がニコッと笑い、後ろの妹が絶望的な顔をしたのがわかった。
私は麦わら帽子を被った妹のほうを選んだ。
なぜなら、私は全てを思い出したから…。

あの日、川に消えた私の妹。
私とともに。
私は本当なら、あの日、あの子とともに消えるはずだったのだ。
二人で川に遊びに行って、そのまま…。
それなのに、私はその後も生きた。
妹の存在を消し去ることで…。
妹が存在しなければ、私は川になんか行かなかった。
私は自分が助かりたいために、あの子の存在を消したのだ。

水色のワンピースを着た妹。
彼女は、あの子の姿を借りた、あの時の私。
行かないでと泣く。消えたくないと泣く。
ごめんね。
でも、私はもうあの子を一人にはできない。
私の向かう先でも、妹が麦わら帽子の下で泣いていた。
ずっと、さみしかったんだね。
今行くよ。

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