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後ろの人
その他リレー小説 - ホラー

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後ろの人 4

振り返ることなく、私は外に飛び出した。
街の中は人で溢れかえっている。
「だれか!助けてください!」
私は力いっぱい叫んだ。
だが、だれも振り向かなかった。
ゾッとした。
まさか。
「だれか!お願い!」
やっぱり誰も、私の声に反応してくれない。
…まるで存在していないかのように。

  「存在を盗りにくるよ…」

家の中から足音が近付いてくる。
私は人の間を走り抜けた。
誰一人私を見る人はいない。
裸足なのにも構わず、私はがむしゃらに走った。


駅前を通り過ぎて、繁華街を抜けて、住宅地に入る頃には私の周りに人が見えなくなった。それでも私は走り続ける。安心なんて出来ない。静かな住宅地に私の走る音だけが響く。私は周りの景色を気にする事をやめて走り続ける。―じゃりっ  突然、足元のコンクリートが玉砂利に変わった。雰囲気も凛と澄んだものに変わっている。私は周り変化に驚き足をとめた。―敷きつめられた玉砂利のうえに本殿に続く石造りの通路。石を削って作られた鳥居。ここは私の故郷にある神社だった。
私の故郷はほどほどに発展した田舎だ。駅や学校やお店は贅沢を言わなければ足りる程度。その町に不釣り合いな物があった。それがこの神社だった。この町に対して立派な神社だったのだ。高台の上に青々とした林に囲まれ、丁度鬼門を塞ぐように神社があった。鳥居が鬼門に向かって来る物に対して口を開けている様な配置なのだ。田舎に住んでいた頃はそれが不思議だった。―しかし、今は不思議なんてものじゃない。
第一、私が今住んで居る街と私が住んでいた田舎は走って行き来できる距離じゃない。電車や車の力を借りないと無理だ。なのに私は走ってこの神社に来てしまった。もうこれは、何か人では無いものの力が働いているとしか思えない。私はここに居てはまずいような気がして、後ろを振り返った。「―!何で・・・」そこには、あるはずの鳥居が無かった。・・・確か反対方向に高台の下へ降りる階段と坂道があったはずだ。私は重い足を引きずるように、そちらの方へ向かった。
静寂に満ちた空気。
神社の周りには確か工場や中学校があったはずだけど、なんの音も声もしない。
私はなんとなく理解した。ここはあの神社であって、そうではないのだ。
夢の中のような雰囲気のせいか、なぜか恐怖心は消えていた。
そう。鏡の中に妹の姿を見たときのように。
ギッと音がして、私はそちらを向いた。
神社の、本堂の扉が、開いている。

―行かなきゃ― 

無意識のうちに私はそちらへと向かった。
そのとき、後ろから聞き覚えのある声がした。

  「だめ…」

妹だった。

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