PiPi's World 投稿小説

逆説・日本史
その他リレー小説 - 歴史

の最初へ
 6
 8
の最後へ

逆説・日本史 8

その間、日本は当初の予定通り、戦線を拡げない持久戦を展開し、しぶとく頑強に抵抗していた。
あの二人の若者、小林と島田もサイパンを守る軍の一員として生きていた。
これも持久戦の結果だろう。
この戦力を疲弊させて停戦に持ち込むという日本の作戦に手こずり、攻めあぐねた米軍は今回、戦局を打開するために特殊訓練を受けさせた海兵隊と第7大隊をサイパンに送り込むことになったのである。
「クッ!日本如きに何故こんな苦戦を」
大統領は苦虫を噛み潰した。相手の重要資源(石油)を禁輸した上で戦いに本腰を入れれば、物資や人員等あらゆる面で日本を上回る自国が軽く捻り落とせると思っていた。
が、予想外の抵抗に攻め落とせず、尚且つヨーロッパ戦線でも枢軸国との一進一退の攻防が続いていた。このまま戦争が長引くと国内から異論が噴出するに違いない。
そう思い、アジア・ヨーロッパ方面で勝負を仕掛けることにしたアメリカ。吉と出るか凶と出るか。

アメリカがサイパンに一段とした軍勢で攻撃を仕掛けようとしていた頃、ヨーロッパのドイツでは衝撃的な出来事が起こっていた。
「総統!遂に完成しました!」
側近が総統の部屋に入ってきた。
「なんだ?騒々しい」
総統は顰めっ面をする。
「失礼しました、遂に完成したのです。原子爆弾が」
「何?そうか、これで我が軍の勝利は近付いた。ソビエト、イギリス、アメリカ…目に物を見せてやる」
総統の拳に力が入る。

それから5日後、世界で初めて原子爆弾がモスクワに投下された。
モスクワの街は一瞬にして灰のようになったという。
連合国軍のノルマンディー上陸作戦の3日前のことだった。

小林が荷物を持って林道を歩いていると、道の脇に目立たないような小さな墓があった。
そこには捕虜となった米兵ヘンリーの遺体が眠っていた。
彼は利用出来るとして生かされていたが、脱走を試みて銃殺されてしまったのだ。
「戦争さえなければこんなことにはならなかったろうな…」


,
の最初へ
 6
 8
の最後へ

SNSでこの小説を紹介

歴史の他のリレー小説

こちらから小説を探す