逆説・日本史 6
「ふぅー、あっついなあ」
島田が汗を拭う。
「今冬だぜ、日本じゃ有り得ないよ」
小林は呆れたように言った。
「でも、しょうがないよな。お国のためだから」
「ああ、この島に絶対要塞を築けば本土に爆撃されないらしいし」
サイパンが陥落しなければ、米軍の戦闘機が日本列島を空爆しようとしても燃料の関係で攻撃出来ないのだ。
「おーいお二人さん!」遠くから眼鏡を掛けた伍長が近付いてきた。
「今日の夜分隊長が宿舎前に集合しろとさ」
「え?なんでですか?」
「なんでも正月祝いの料理を作るために分隊の中から何人か海に魚を捕らせに行かせるらしくてその係り決めだとよ」
「…わかりました」
「じゃ伝える事は伝えたからな」
そう言って眼鏡は暑いと言いながら歩いて行った。
「もうそんな時期か、正月なんて忘れてたよ」
ぼやくように小林は言った。
「こんな蒸し暑いのに正月か、なんか変な気分だな…」