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逃亡記
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逃亡記 4

俊明は上村の前に立ち塞がり行く手を遮った。
「どけ!!佐藤!!俺はこの火事に紛れて脱藩してやる事に決めた!!これだけあればひと財産になるわ!!」
「か…上村ぁ!!この下衆めがぁ!!」
「フハハハハハッ!!貴様も欲しければ好きなだけ持って行けば良かろう!!どうせここに残しておけば焼けてしまうのだからなぁ!!」
「貴様のような男の手に渡るのならば焼失してしまった方が百倍増しという物だ!!」
「ハッ!ほざきおったな!!」
次の瞬間、上村は両手に抱えていた書画を投げ捨てると、脇差しを抜いて俊明に斬りかかって来た。
「うおぉ…っ!!?」
俊明は咄嗟に身をかわす。
刃はぎりぎりで彼の身をかすめ、裃(かみしも)の肩の先がすっぱりと落ちた。
「くそっ!!死ねえぇ!!」
再び斬りかかって来る上村。
「や…止めろぉっ!!!」
俊明もやむを得ず脇差しを抜き放って応戦した。

「ぐああぁぁぁぁっ!!?」

その瞬間、俊明は何がどうなったのか良く覚えていない。
気が付いたら上村が胸から血を噴き出させながら倒れる所だった。

「さ…佐藤殿!これは一体いかなる事でござるか!?」
それは煙を見て駆け付けた同僚達の声であった。
「じ…実は…」
俊明は事の次第を包み隠さず同僚達に語った。
その間にも消火活動が為されていたが、火はあっと言う間に燃え広がり、手の施しようが無かった。

書物蔵は全焼した。

俊明は今度の事件の当事者として自宅謹慎を命じられ、後は検分役のお沙汰を待つ身となった。

彼の家を訪ねて来た書物奉行は言った。
「まさかこんな事になるとはのう…だが案ずるな。そなたが嘘を吐くような人間ではないという事は検分役の者達にも良く話しておこう」
「かたじけのうございまする。…というかお奉行、やはり私は疑われておるのでございますか…?」
「…仕方あるまいよ。そなたや上村の人柄を知らぬ者があの状況だけを見ればのう…逆にそなたが書画を盗み出そうとしていた所を上村に見咎められ発覚を恐れて殺害し証拠を隠滅するために放火…そう考えたとしても何の不思議も無い」
「そ…そんな馬鹿な…!!」

奉行が帰った後、妻の千沙は俊明にすがりついて涙を流した。
「あなた…!」
「千沙…」
俊明はただ妻の名を口にし、彼女の体を抱き締める事しか出来なかった。
千沙はすすり泣きながら言う。
「どうして…どうして天はこんな不幸をあなたの身に降りかからせるのでしょうか…!?あなたは今まで悪い遊びもせずに真面目一筋に働いて…これから家族三人やっと幸せになれるという時に…!」
「大丈夫…お奉行や同僚の皆も力を貸してくれる。きっと私の無実は証明されよう…」

それから更に数日後、俊明への処遇が決まった。
俊明は御沙汰を受けるため久し振りに登城したのだった。

「佐藤 新左右衛門 俊明、城中にて抜刀し上村 剛之丞 重文を斬殺した咎により切腹を申し付ける!」
「は……!?」


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