クロス大陸戦記 33
話は元に戻る。
結局、バロは目に見えない、ゼスティンだけでは起こせない反乱の可能性より、目に見える(彼に見えるかどうかは判らないが)剣の一閃を恐れたのだ。
アスベルが見たのは所詮“試合う”ゼスティンだ。“戦う”ゼスティンではない。
首を傾げて考え込むアスベルを見て微笑むとゼスティンは玄関の扉を開いた。
建物の外に出ると見覚えのある女騎士が立っていた。セフィだ。
「先任が隊長と副隊長を食堂にお連れしろ、と。ご案内します」
教則の通りに敬礼すると、実に淡泊な口調でそう言った。
騎士には珍しく近付き難い印象を受けるが、人当たりで本質が判るわけではない。実力ならば尚更だ。取り敢えず、実直さは評価に値する。今はそれで十分だ。
「あぁ、有難う。食堂か…宿舎の中にあるのか?」
「いいえ。砦の中です。此方へ」
簡潔に答え、セフィは歩き出した。
「食料庫があの中なんで。その方が勝手がいいんでさ」
アスベルがゼスティンに耳打ちをする様に補足した。
「そうか」
軽く頷いてセフィの後に続く。
半ば以上が砂に埋もれている為に判りにくいが、砦は小高い岩の丘の上に建っていた。砦の入り口まで続く、岩盤を削って作られた切り通しに近い造りの狭い坂道が、砂に隠される前の名残を残している。
その階段を上りきると小さく造られた門に突き当たる。
この手の建物の門は、狭く侵入しにくいように造られるが、この門も例に洩れず非常に狭い。
騎乗した騎士ならば一騎。歩兵でも二人並ぶのが限界だろう。武器を振り回すとなれば、一人で道を塞ぐ事も不可能ではない。
歩哨に立っている騎士と敬礼を交わして門を潜る。
機能上、大きな窓は殆ど無い構造になっているのだが、砦の内部は存外明るかった。効果的に配置された採光窓と灯火が廊下を照らしているのだ。
セフィの後に続いて複雑に入り組んだ廊下を進む。
砦の側面に沿って曲がる回廊を半周近く歩き、さらに2つの階段を下ったところで、セフィは漸く立ち止まった。
「この先が食堂です。歩哨に立っている者以外はこちらに集まっています」
どうぞ、と言ってセフィが扉を開けた。中の騒めきが廊下に流れ出てくる。
渋い顔をして、オレが先に…と言い、アスベルが食堂に入っていった。
『えぇ〜!?』
落胆の溜息と罵声。
「黙れテメェ等!オレじゃねぇ!」
叫ぶアスベルに笑い声が上がる。