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クロス大陸戦記
その他リレー小説 - 戦争

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クロス大陸戦記 31

「大局を見れば当たり前の行動なんだがな…オレ達、南部騎士隊をを軽く見られた気がしてな」
 感情を持て余して頭を掻くアスベルに、ゼスティンは笑いかけた。
「騎士だけを犠牲にする訳にはいかないだろう?」
 それを聞いてアスベルも頬を緩める。
「…承知しました。留守は任せてくだせぇ」
 アスベルの中にはまだ葛藤はあるようだが、為すべき事は理解しているだろう。
 ゼスティンが知る限り、この男は普段の言動からは考えられない程に理性を重視する。感情では判断を下さず、動かない人間だ。
 かと言って、今の言動が示すように、全く冷徹なわけではない。理論が感情に優先する人間だということだ。
 諭す言葉を重ねる代わりに、ゼスティンはアスベルの不安を一つだけ除く事にした。
「俺の正体については、エレディアから帰ったら俺自身が伝える。それまでは“カルス”ってことにしておいてくれ」
「了解しやした」
「はい」
 アスベルとウルドは同時に頷いた。
「さぁ、此処の仲間に挨拶するか。ウルド、集合をかけてくれ」
 敬礼して部屋を出ていくウルドを見送った後、ゼスティンはアスベルと口裏を合わせる為の打ち合せをし、共に部屋を出た。
 初めて入ってきた時より目が慣れたか。薄暗い廊下の様子は先程よりも明瞭に見える。
 書庫の扉を“立て直し”ながらアスベルが訊ねた。
「しかし、隊長は何でこんなトコに飛ばされたんで?『剣聖』の扱いにしちゃぞんざいすぎる気がするんですがね」
「あぁ、宰相…バロに嫌われたんだ」
 アスベルの質問に、ゼスティンは何の躊躇いも無く即答した。もともと匿す必要の有る事ではない。
 “帝権派”と呼ばれるバロの独裁に反対している官僚や貴族、諸侯のグループがある。
 その主だったメンバーの一人がゼスティンの父親であり、ゼビアで最大の騎士団『神の盾騎士団』の団長であるメキスであった。
 そして、帝権派の中でも若手の旗印として、また国内最強の剣士として、絶大なカリスマを持つゼスティンを日の当たる場所に置いておく事は、バロにとって非常に危険な事だったのだ。
 バロが身辺に危険分子…生命を脅かす可能性を持つ者を近付けたくなかった事もあるであろうが。
「まぁ、兎に角。此処に来れたのは良い機会だった訳だ」
 ゼスティンはそう言って話を締め括った。

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