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クロス大陸戦記
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クロス大陸戦記 30

 それはエレディアを領地とする伯爵、レミア=ハートノルドも同じだと考えられる。
 病死した父に代わり、二十代の若さで領地を運営するこの才媛は首都ロークでも仁君と評判の人物だ。当然ながら、領民に対する仕打ちに納得できる訳も無いだろう。
 加えて、本来なら鉱山の収益の一部は爵家の収入になる筈だったのだ。開発に多額の出資をしてきたのだから当たり前の権利だろう。だが、これも不意になってしまっている。
 詰まる所、エレディアは街ぐるみ、領主から領民までバロ宰相に怨みを持っていると言えるのだ。
 考えに耽るゼスティンの代わりにウルドが口を開いた。
「賭けてみる価値はありますね。但し、間道を用いた物的援助だけです。エレディアはバロの監視が厳しすぎるんで大兵力は動かせません」
 ウルドが支持を表明するのを聞き、ゼスティンも顔を上げた。
「誰を使者にする?」
 ゼスティンはアスベルに訊ねた。まだ部下全員を把握しきれていないのだ。
「卿が…いや、隊長が行くべきです」
 アスベルが口を開く前に、ウルドがそう言って窓際まで歩き、鎧戸を開け放った。砂嵐は完全に止んでいる。
「俺は顔が売れ過ぎているぞ?バロ宰相に知れるとまずい。エレディア伯と会っただけで警戒が強まる」
 反論するゼスティンにアスベルも同調した。
「着任早々、隊長が留守をしたら部下も落ち着かないぜ。それにあれだ…」
 アスベルは苦り切った表情で続ける。
「隊長がな…ゼスティン卿だったってことをどうやって説明したもんか…オレには見当がつかねぇ」
「リスクの高さは承知の上です」
 ウルドはきっぱりと言い切った。ゆっくりと机と窓の間を往復しながら言葉を重ねていく。
「見返りの方が大きいんですよ」
「逆に疑われないか?」
 ゼスティンは顎に手をやって唸ったが、ウルドは首を横に振った。
「だからこそ、ですよ。隊長が直に交渉するのが疑惑を晴らす一番良い方法ですから。大体ですよ、剣聖が反乱に加わるなんて言っても、過半数の人々は眉唾だと考えます」
 正論だった。
 反駁出来ず、ゼスティンとアスベルは黙り込む。
「決断を」
 ウルドはゼスティンの正面で立ち止まり、止めをさす様に言い放った。
 ゼスティンは数瞬黙考した。
 アスベルが不安とも期待ともつかない視線を向けてきている。
 ゼスティンは微苦笑を浮かべた。が、口調だけは決然と二人に告げた。
「俺がエレディアに行ってくる」
 ウルドは破顔したが、アスベルは開きかけた口を引き結び、腕を組んで黙り込んだ。
「副隊長…」
「いや、判っている」
 眉をひそめるウルドの言葉を遮って、アスベルが口を開いた。

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