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クロス大陸戦記
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クロス大陸戦記 27

 声の方に踏みだそうとした足を慌てて引っ込める。危うく蔵書を踏むところだった。
 ただでさえ狭い本棚の間は、本棚に納まり切らなかったモノに埋め尽くされて床が見えない程になってしまっている。。
 “カルス”は足下に積まれた本に―といっても、アスベルが八割がた蹴散らしてしまっていたが―気を付けながら奥へと向かった。
「あれぇ、副隊長?どうやって入ったんです?」
 部屋の最奥に置かれた机に向かっていた、いかにも学者然とした痩身の男が不思議そうに首を傾げた。
 帯剣していなければ学芸員―帝立大学校の講師―にも見えただろう。
「隊長殿に開けて頂いたんだよ!ご丁寧に閂までかけやがって」
 怒り心頭のアスベルに対し、男は笑って頭を掻いた。
「なるほど。副隊長には壊せない強度に設計し直したんですが…そういう事なら納得です」
 悪怯れもせずにそう宣った男に、毒気を抜かれたアスベルは頭を抱えた。
「そういう問題じゃねぇ…」
 呻くアスベルを見て楽しげに笑うと、男は遅れて入ってきた“カルス”に目を移した。
「あぁ、新任の隊長殿ですか。僕はウルドと言います。部隊先任を拝命しています」
 ウルドはそう言って、胸に拳を当てた。
 “カルス”も微笑して答礼する。
「昨日着任した“カルス”です。どうぞよろしく」
 “カルス”の挨拶を聞いたウルドは訝るような表情を浮かべた。
「『カルス』…ですか?」
「えぇ。何か?」
 困惑する“カルス”をウルドは探るように見る。
 ウルドは“カルス”の顔を無表情に見つめると、一呼吸おいて言った。
「『剣聖・ゼスティン』じゃ無いんですかね?」
「っ!?」
 “カルス”―ゼスティンは思わず息を呑んだ。
 ゼスティンがしまった、と後悔したときには、ウルドは推測を確信に変えていた。
「やっぱりね」
 ウルドがニヤリと笑う。
 アスベルはあまりの事に声が出てこないらしく、口だけをパクパクと動かした。
「ロークから来た聖騎士樣。鋼鉄の扉を壊せる剣腕。何より、その佩剣の紋章を見れば明らかですよ」
 ゼスティンは自分の迂闊さに小さく呻いた。
 ゼスティンが腰に帯びている剣は父親のメキスが先代の皇帝に下賜された物で、帝家の紋章が施されている。ゼビアの公文書を見た事があるなら簡単に持ち主を探り出せる筈だ。
 慣れた剣が良いだろうという事ばかりに気をとられ、考えが至らなかったのだ。

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