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クロス大陸戦記
その他リレー小説 - 戦争

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クロス大陸戦記 26

「さぁ、ここでさぁ」
 アスベルは廊下の一番奥にある扉の前で立ち止まった。
 誰の発案かはわからないが、事務棟の扉にはそれぞれ部屋の用途が書かれたプレートが付けられている。
 無論、アスベルの正面の扉も例外ではなかったのだが…。
「書斎…ですか?」
 “カルス”は首を傾げた。
 プレートの『書庫』の『庫』の部分が二重線で消され、余白に『斎』の字が乱暴に書き付けられていたのだ。
「あぁ、気にしねぇでください。奴の悪戯ですから」
 アスベルは微笑してドアノブに手を掛けた。が、扉は開かなかった。
「あの野郎…」
 笑みを消さぬまま物騒な響きを纏った声で呟くと、右の拳で扉を乱打する。
「ウルド!開けろ!」
 返事は無い。扉を叩く音だけが廊下に響く。
 アスベルは舌打ちをして“カルス”に向き直り、扉を指差した。
「隊長。こいつをぶっ壊せますかね?」
 “カルス”は苦笑した。
 砦に付属する建物だけあり、扉は分厚い木の板で作られ鋼鉄の金具で補強された頑丈この上ないものだ。
「やって出来ない事は無いと思いますが…やるんですか?」
 気の進まない“カルス”に対し、アスベルは過激だった。
「構いやしません。何が何でも野郎を引きずり出さにゃならんのです」
 はぁ、そうですか、と溜め息混じりに呟いて“カルス”は抜剣した。
 ふと、剣の修業をしていた時の事が頭を過った。
 師匠の養子。ゼビアの遥か南、暁島生まれのあの弟弟子は今何をしているのだろう。
 ―彼にしてみればこの程度の扉など紙切れに等しい。
 そう考えると、たかが扉に神経を集中させている自分が何とも情けなく思え、知らず口の端があがった。
 “カルス”はアスベルに脇に退くように告げ、剣を正眼に構えた。
 そして数瞬。
「せやぁぁぁ!」
 キン!という澄んだ音と共に扉が縦に二つになった。
「さすが!」
 アスベルは称賛の言葉を“カルス”に贈るやいなや、閂まで断ち切られ辛うじて枠に納まっているだけの扉を蹴破り、書庫に飛び込んだ。
 騎士というよりは押し込み強盗のような荒技に半ば呆れながら、“カルス”も書庫の中へ歩み入った。
 まず目に入ったのは本の山だ。比喩ではなく、その通りの光景だ。
 そして、アスベルの怒鳴り声。
「ウルドォ!貴様、何してやがる!」
 見渡す限り部屋一杯に並べられた古びた本棚に、これまた古色蒼然といった本や書類が雑然と納められている。
 アスベルの罵声はその向こう側から聞こえてきた。

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