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クロス大陸戦記
その他リレー小説 - 戦争

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クロス大陸戦記 25

「相変わらず無愛想な奴だな」
「真面目な方みたいですね。理知的というか…」
 “カルス”は本気で感心した。
「アレは面白みが無いって言うんじゃないですかね?まぁ、槍の腕は確かですぜ。槍同士じゃ男共でも、あいつに勝てるのはごく僅かですからね」
 渋い顔のアスベルの言葉には、内容とは裏腹の何処か自慢気な響きがあった。
「もうちょっと愛想が良けりゃ、美人で済むんですがね…何を間違ったんだか」
 残念そうに呟くアスベルは娘の心配をする父親のようにも見えた。

 風が随分と強くなってきた。周りが建物で囲まれているにも拘らず、入り込んできた風が中庭で旋風を巻いていた。
「大分ひどくなってきやがった。急ぎやしょう」
 アスベルは半ば小走りになって事務棟へと歩き出した。
 “カルス”もアスベルに倣い、舞い飛ぶ砂から顔を守りながらその後ろに続く。
 大慌てで荷物を纏め、或いはラクダを集める商人達の間を縫って、砂に霞む事務棟に向かう。
 あっという間に5メートル先が見えない程になった砂塵から逃れ、二人は事務棟の無愛想な木の扉を潜り抜けた。
 入ってすぐの簡素なホールで一息吐く。宿舎の方に入ったのか、他の騎士の姿は無かった。
「まずは、これで一安心」
 上級の騎士に着用が義務付けられている、真紅のマントから砂を払いながらアスベルが笑った。
「砂嵐ですか…。話には聞いていましたが、随分大変なものですね」
 目や口、挙げ句の果てには鼻や耳にまで容赦無く入り込んでくる砂に閉口した“カルス”が呆れたように呟く。
 小さめに作られた窓にはまった鎧戸を、砂が叩く音が喧しい。
「ひどい時はこんなもんじゃ無いですぜ」
 アスベルは真顔になった。
「門の上で歩哨に立っていて吹っ飛ばされた奴もいますからね」
 それからは命綱を着けさせているんで、とアスベルは言う。
「それはひどいですね」
 “カルス”は眉をひそめた。
「まぁ、北の地吹雪と同じようなもんでしょう。風物、名物の類ですな」
 アスベルは応じながら、ホールの隅に置かれた箒を取って床に落ちた砂を掃き集め、扉の横に纏めて山を作った。
 豪放磊落、粗野な印象のある男だが、意外に繊細で几帳面な所がある。大軍の指揮官よりは小回りの効く部隊を動かす方に向いているのかもしれない。
「よし、と。じゃ、行きましょう。こっちです」
 アスベルは箒を壁に立て掛けると“カルス”を先導して歩き始めた。
 窓が閉じられている為、建物の中は暗い。
 間隔をあけて置かれている、二つのランプの光だけを頼りに廊下を進んで行く。
「この階は事務室、つまりは書類とか印鑑の類を扱う所ですな。実際は外で済ませちまう事が多いんでほとんど使ってませんがね」
 慣れているのか、アスベルは暗い足元を気にする事無く奥へと進んで行く。

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