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クロス大陸戦記
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クロス大陸戦記 24

 先任騎士は副隊長に次ぐ役割で、隊の運営には欠かせない重要なポジションだ。
 隊を二つに分けている南部騎士隊では、隊長が不在の間はアスベルの代理として一方の隊を率いることになっている…筈だが…
「すんません、隊長。直ぐとは言わないんで、書庫までご足労願えますかね?」
 アスベルは疲れた顔で溜め息を吐いた。
 “カルス”はただ苦笑するしかなかった。

 ウルドに会う前に、とアスベルは“カルス”に建物の説明をした。
「左手前が宿舎で、奥の…国境側の建物が事務棟でさ。食堂とか風呂場なんかの公共設備は事務棟ん中に全部入ってます」
 更に中庭を挟んで反対側。右側の城砦を指差す。
「あのゴツいのが砦の本体で武器庫と食糧庫はあん中に在ります。隊長の執務室も立派なのがありますぜ。一応、あれが正式な拠点になってるんで」
 ニヤリと笑って付け加えるアスベルに、“カルス”は砦から視線を外して微笑み返した。
「残念ながら…其処を使う暇は無さそうですね」
 腕組みをして再び砦に目を遣る。
 砂混じりの風が一陣、視界を駆け抜けた。
 この辺りに多い、脆い泥岩の切石を積み上げた石組みが砦本体の基礎になっているが、要所々々はセメントと花崗岩で補強が為されている為、十分実戦に耐え得るだろう。
 もっとも、“カルス”にはこの砦を頼って戦うつもりは全く無いし、頼らなければならない時はバロ宰相に計画を看破された場合―つまり、最悪の状況―だけだと考えている。
「んじゃ、ウルドの奴に会いに行きましょうや。砂嵐が来るようなんで、建物ん中に入った方がいい」
 アスベルは顔を左腕で隠しながら歩きだした。
 “カルス”もそれに続こうとすると、アークが抗議するようにいなないた。
「アスベルさん。馬はどうしましょうか?」
 忘れておいて今更だが、さすがに砂嵐の中に放っておくのは不憫だ。
「砦の厩に入れときましょうか。よぉ、セフィ!」
 通り掛かった女性の騎士にアスベルが声を掛けた。
「副隊長?…何か?」
 セフィと呼ばれたひどく寡黙な印象の女騎士は、冷めた声で返事をした。
「あいつらを厩に入れといてくれ」
 アスベルが指差した先にいる馬を一瞥して、無言で頷く。
 そこで初めて“カルス”に気付いたらしい。“カルス”を頭の天辺から足の爪先までじっと観察してから、セフィはアスベルに問い掛けた。
「誰ですか?」
 率直かつ簡潔な言い方に、“カルス”は思わず苦笑をもらした。
「“カルス”隊長だ。昨日着任されたんでな」
「“カルス”です。よろしくお願いします」
 “カルス”もアスベルの紹介に併せて名乗る。
「セフィと申します。よろしく」
 セフィは“カルス”の差し出した手を軽く一回だけ握ると、すぐに踵を返して馬の方へと早足に歩き去った。

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