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クロス大陸戦記
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クロス大陸戦記 23

「此処に来る事は私にとっても賭けでしたから」
 “カルス”の言葉にアスベルは眉をひそめた。
「賭け…ですかい?」 “カルス”は頷く。
「一つめは、あなた達が宰相のことをどう思っているかでした」
「…成功したんで?」
 アスベルは手綱を握り締めた。気付いたらしい。
「はい…今の処は」
 村の喧噪から抜け出すと、明るい緑の草原が見渡すかぎり続いている。
 不意に“カルス”の顔から笑みが消え、貫くような眼光が残る。
「猶予は恐らく三ヶ月、準備を始めましょう」
「…はい」
 アスベルは不敵に笑った。


 ゼビアの南端。アリバとの国境は、草原が途切れ、砂漠に変わり始めるところにある。
 ごく小さな砦を中心に、背の低い石造りの建物が二つ、身を寄せ合うようにして集まっている。
 国境に沿って石垣と木柵が巡らされていたが、砦を囲む部分以外は、石垣も柵も崩れ、ほとんど風化しかかっている。
 それは、この地方がこの十数年間平穏そのものだったという証拠であった。
 “カルス”とアスベルは砂に埋もれかけた石畳の街道を辿り、時折、アリバからのキャラバンと擦れ違ったりしながら、昼前には砦に着いた。
 遠目には随分と荒れているように見えたが、間近まで来ると手入れがよく行き届いている事がわかる。
「さぁ、着きましたぜ」
 アスベルに先導されて、堅牢な石造りの門をくぐると、砦の本体と建物に囲まれる形の中庭に出た。
 その中央にある泉の周りでは、街道を往来するキャラバンが通行証の発行を待っており、その間を通関を担当する騎士達が忙しく歩き回っている。アースの村に負けず劣らずの騒がしさだ。
「副隊長!?何しにきたんです?」
 馬車の積み荷をチェックしていた騎士の一人が、アスベルの姿に気付いて寄ってきた。
「よお、グライツ」
 アスベルが片手を挙げる。
「珍しいですねぇ。いつからそんなに仕事熱心になったんです?」
 グライツと呼ばれた騎士は、胸に拳をあてる略式の敬礼をしながらそう言った。
 “カルス”よりも若いだろうか。笑った顔にはまだあどけなさが残る。纏った雰囲気は、誠実と言うよりは純真と形容するのが正しい気がした。
「新しい隊長がいらっしゃったんでな。お前等を紹介せにゃならんだろう?」
 アスベルは“カルス”に視線を遣った。
 グライツはそれを追うように“カルス”を見ると、目を丸くして驚いた。
「うわぁ、聖騎士樣ですか」
 “カルス”の鎧を見て取ったグライツに、本気の憧れの目で見られて“カルス”は思わず苦笑いを浮かべた。
「初めまして、隊長を拝命した“カルス”です」
「グライツと申します!遠慮無く使って下さい」
 ビシッと敬礼するグライツにアスベルが訊ねる。
「グライツ。ウルドの奴は何処に居やがる?」
「先任なら事務棟の…」
「書庫だな」
 遮ってアスベルが続けた。
「そうです。見つけたら仕事するように言って下さいよ…朝から籠もりきりなんです」
 頷いてそう言うグライツは渋い顔だ。

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