PiPi's World 投稿小説

クロス大陸戦記
その他リレー小説 - 戦争

の最初へ
 20
 22
の最後へ

クロス大陸戦記 22

「くそっ!足さえ動いてくれれば…」
 吐き捨てるように言って、ゼスティンはセシリーを背に庇った。
 不吉な輝きを放つ魔弾はすぐ目の前まで迫っている。
 せめてセシリーだけはと覚悟したゼスティンの前に、よく知った人影が飛び込んできた。
「ギリギリになったが…今度こそ俺の出番だな、ゼスティン!」
「パイス!?馬鹿なことを…っ!」
 驚き叫んだゼスティンに、パイスは顔だけ振り向いた。
「約束だったろ?」
 悪戯を成功させた子供のような笑顔を見せ……
「パァァァイス!!」
 迸しる闇色の光に飲み込まれた。


「ッ!?」
 跳ね起きる。
 周りを見回して、此処がアースの村にある宿屋の一室であることを漸く思い出した。
「夢…か…」
 心臓が早鐘を打っている。悔やんでも戻ることは無い、しかし忘れることなど出来ない過去の傷跡…。
 ゼスティンは首から下げられたアミュレットを握り締めた。盾を型どったそれは、パイスがゼスティンにくれたもので今となっては形見の品だ。
 パイスが幼い頃、騎士だった父親から貰ったものだというそれは、彼にとって夢の、或いは理想の象徴だったらしい。
 『お前は俺の夢なんだ…』と笑いながら手渡された時のことは、今でも鮮明に思い出せる。
「パイス…」
 呟くようにその名を呼ぶ。無論、返事を期待したわけではない。
 パイスはその夢の内容までは語ろうとしなかった。が、ゼスティンが出来る事といえばたかが知れている。
 夜明け間近、白んできた空は鮮やかな紫に染まっている。
「俺は、俺の信念で生きてみるよ」
 ゼスティンはその空を窓越しに仰ぎ、誰にとも無く告げた。


 日の出を過ぎ、辺りが明るくなってくると、アースの街路も人通りが多くなってくる。
 食堂で騎士の面々と歓談しながら朝食を済ませた後、活気のある通りを“カルス”はアスベルと並んで馬を進めていた。
「どうです?都じゃ珍しいものもあるでしょう」
 早くも商売を始めた露店の店先を眺めていた“カルス”に、アスベルが自慢気に言った。
「それもありますが…正直、まだ驚いていますよ。バロ宰相の統治下で、これほど活気があるところは見たことがありません」
「確かに…」
 アスベルが真顔で頷く。
「この賑わいを守るのがオレ達の仕事ですぜ?差し出がましいようですが…気になることがあるんで…」
 一呼吸置いてからアスベルは続けた。
「オレの推測ですがね…隊長が此処に来たのは偶然じゃ無いんでしょう?人事局がまともなら、こんな辺境に聖騎士なんてぇ人材は送らない筈だ」
 そこまで言って、アスベルは口籠もった。快活なこの男らしく無い様子だ。
「その…気を悪くしないで欲しいんですがね。隊長が来たことで、バロの…宰相の監視が強まるのを恐れているんで…」
「わかっています」
 “カルス”は薄く微笑んだ。

SNSでこの小説を紹介

戦争の他のリレー小説

こちらから小説を探す