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クロス大陸戦記
その他リレー小説 - 戦争

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クロス大陸戦記 21

「・・・バロ導師、わたしは奇跡を見ているのかね」
クーリ皇帝が、放心したようにつぶやく。
「はい、どうやら我々は神の降臨という奇跡を目撃しているようですな」
血の臭いの残る部屋が、純白の光に包まれ清浄されたような錯覚を覚えながら答えるバロ。
「ゼウア神を降臨されて、セシリー樣は大丈夫だろうか・・・」
「大丈夫じゃよバルド司祭、我らが光の聖女樣は一度や二度、神を降臨させたぐらいで消滅するような魂でも肉体でもありわせんよ」バルドの言葉に答えるグリウス。
その時、室内にいたすべての者は、あらゆる動きを止めた。そして、彼らの心に至高神ゼウアの意志が流れこんでいった。

若き勇者よ・・・
若き聖女よ・・・・
傷ついた肉体と・・・魂は癒される・・・・
神の意志に触れ、人々は心が完全な平穏に満たされてゆくのを意識した。
そして唐突に、純白の光が消えた。

沈黙と静寂が、しばし室内を支配した。
「セシリ−・・・?」相手の顔を確かめることなく、自分を包む温もりにゼスティンは問いかける。
「気分はどうですか・・・・?」
恐る恐るセシリーが尋ねた。
「・・・ええ。・・・ありがとうセシリー」かすれた声でゼスティンは礼を言う。
体のだるさは感じるが、さっきまでの苦しさは嘘のように消えていた。
「ゼスティン・・・」気力を使い果たしたセシリーが、放心したようにつぶやくと、ゼスティンの胸にたおれこむように身を預けていった。ゼスティンの力強い腕がそれを抱きとめる。
パイスは安堵の息を洩らして、室内を見渡した。
 しかし、すぐにパイスの顔から安堵の色が抜け落ちる。
 清浄な気に中てられたか…苦しげに呻きながらだったが、黒いローブの男は再び魔法陣を描きだしていた。ゼスティンとセシリーに気をとられ、気付いている者は他にはいない。
「まずい!止めろ!」
 パイスの叫びに近衛騎士達が慌てて動きだす。鎧の音が乱雑に響いた。
「転移法陣!?いや、これは…攻撃呪法か!」
 事態に気付いたバロが驚きに目を見開き、直ぐさま対抗呪文を紡ぎ出す…が。
「くっ…間に合わん…」
 悔しげに唸るバロを嘲笑うように、魔法陣は完成した。
「終わりだ!」
 男が叫ぶ。手から放たれたのは闇色の光球。その狙いは、漸く上半身を起こしたゼスティンだった。
「くっ…!?」
 セシリーを抱えたまま立ち上がろうとするが、バランスを崩して再び床に倒れこんだ。
 狙いはクーリ皇帝だと思い込んでいた為、グリウスとバルドが二人がかりで展開した防御法陣は二人まで覆っていなかった。
「セシリー樣!!」
 バルドが叫んだが、セシリーの意識は戻らないままだ。
 ゼスティンは剣を支えにして、膂力で引きずるように体を起こしたがそこ迄だった。膝に力が入らないのだ。

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