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吹けよ暴風、荒れよ台風
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吹けよ暴風、荒れよ台風 6

 そんな中、ハ50搭載の戦闘攻撃機を開発しようとする野心家のエンジニアがいた。
十三試艦戦「暴風」の開発者でもあった、大阪航空工業の高橋徹社長であった。
 後に名機と言われる零戦だが、十二試艦戦の名前で三菱の一社指名で試作開発が発令された折、それまでのように競作にしないことを不安視する者もいた。
 それまでも零式水上偵察機など、いろいろな機体が競争試作で開発されたのだが、当然ながら競作に出した機体が失敗作だったメーカーもあった。
 一社を指名すれば開発リソースが集中できるのも確かだ。だが失敗作だった時の事を考えると…というわけだ。
 そうした海軍航空関係者の不安が大阪航空工業のベンチャー企画であった艦上戦闘爆撃機の開発計画と結びつき、のちに十三試艦戦として正式な計画となり、火星搭載の艦上戦闘爆撃機「暴風」として結実する。
 さらに並行して、他社の技師たちが戦闘機への搭載を躊躇していた木星を、あえて戦闘機に搭載してしまおうと高橋徹社長は考えたのだ。
 高橋徹は、米英戦闘機の多くを凌ぐその大馬力が、多少の欠点は埋め合わせてしまうと信じていた。この時開発していた十三試艦戦…後の暴風も、火星の大馬力ずくで実現した性能や機能をいくつか持っていた。
 後発のメーカーである大阪航空工業としては、いつまでも中島や三菱、川崎の後塵を拝しているわけにはいかない。野心的な計画に賭けなくては市場競争に勝てないと見て、挑むつもりでいる。
 そのために、高橋徹は、十三試艦戦の自主開発にあたって機体形状を決めるため、数多くの実験を行った。
 
 彼の試算では、艦上戦闘機としての空戦能力と爆撃能力の両立には、1500馬力ほど必要と見ており、そのために金星、火星、それに三菱のハ6に中島のハ5や、まだ開発中だった木星、誉やハ50土星といった将来登場するであろう各エンジンの搭載を想定して、エンジンサイズに合わせてカウリングなど機首形状を替えたり、胴体を絞り込んだ場合とそうでない場合を比較した、機体形状の異なる風洞模型を多数用意して、徹底的に調べた。
 自主開発故にエンジンの指定が無かったからできた事でもあり、同時に大学との共同研究でもあった。
 彼は九六式艦戦や陸軍の九七式戦闘機の格闘性能は、パイロットの腕に頼りすぎていると考えており、その分のリソースは速度性能や、欧米の急降下爆撃機に伍するべく最低でも500キロの爆弾を装備可能とすることに回すべきと見て、大馬力エンジン搭載前提でいろいろと試したのだ。 
 その結果、彼は十三試艦戦、のちの「暴風」を開発していた昭和15年の時点で「機首や胴体の設計が良好なら、空冷エンジンの直径が大きくても空力的にさしたる悪影響を及ぼさない」と考えるようになっていた。

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