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太平洋の荒波
その他リレー小説 - 戦争

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太平洋の荒波 99

軍需省の官僚とともにこの工場新設・拡張に係った海軍航空本部の森里大佐は、「これでようやく、空母艦上機を暴風と烈風に集約できるな。」
そう呟いていた。

岸和田工場に隣接する貝塚飛行場、ここは大阪航空工業の試験飛行や納品の為の飛行場だったが、一風変わった「暴風」が離陸準備をしていた。
機体形状は、量産型の1つである暴風一四型と変わらず、ハ104ルの爆音を奏でていたが、注目を引くのは胴体下部だった。
なんとこの暴風は、航空魚雷1本を装備した雷撃機型だったのだ。
多数の通常塗装の量産機の試験・調整飛行が行われる中、この雷撃型暴風をはじめ数機が、試作機であることを示すオレンジ色の塗装に身を包み、準備や離着陸を行っていた。その中には数機の試作雷撃型暴風の姿もあった。

そして、雷撃型暴風たちが滑走路に入り、九一式800キロ航空魚雷を吊り下げて、エンジンパワーに物言わせ、余裕ある動きで離陸した。

同時刻、大阪湾上空。零式輸送機が飛んでいる。機内には、検測員、それに森里大佐と高橋徹社長の姿があった。

眼下には、標的艦「摂津」が航行している。

「大佐、今から雷撃試験を開始します。」
機内の森里大佐らに、雷撃型暴風を操る山岡少佐からの無線の声が拡声器で流された。

「うむ、やってくれ!」
送話器に向けて森里大佐が返事を返す。

海面ぎりぎりの低空を、雷撃型暴風たちは安定した飛行ぶりで飛び、「摂津」にぐいぐい接近してゆく。

「摂津」は機関出力最大で航行し、飛来する暴風隊の雷撃を避けようとしていた。

見張り員が叫ぶ。
「敵機、右舷前方!三○(3000m)!」
艦長の声が響く。
「面舵一杯!」
だがまだ「摂津」は回頭を始めない。元が戦艦であるだけに「摂津」は重く、慣性でしばらくは直進を続けるのだ。
「敵機、距離、二○!」
オレンジ色の雷撃隊が接近する。
(予想以上の高速だ、早く回頭してくれ、「摂津」!)
艦長が念じる。
漸く舵が効き始め、「摂津」が右に回頭しだした。
「敵機、距離、一○!」
どどどど・・・・・
「摂津」は走る。
「敵機魚雷投下!」
「右舷前方雷跡四!」
九一式航空魚雷の排気―日本海軍でも航空魚雷は空気魚雷だった―が水泡となって雷跡を曳きつつ突っ走ってくる。

暴風は、800キロもの重量を減らしたことで機体が浮き上がりそうになるのを操縦士たちが抑え込む。
実戦ならここで浮き上がると対空砲火に食われるからだ。

「魚雷、来ます!!」
魚雷に艦首を向けて相対面積を減らして魚雷を避けようとした艦長の判断は・・・・・・・
「魚雷2、右舷を通過!」
「魚雷1、左舷を通過!」
「魚雷1、艦底通過!!」
と見張り員たちの声が来た。
「かわしきれなかったか・・・・・。」

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