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太平洋の荒波
その他リレー小説 - 戦争

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太平洋の荒波 159

ユタ海岸を破られつつあるとの知らせに接した、空軍総司令官のグライム元帥が指示を下す。

「まずいな…大穴を開けられる前にV1を叩き込めるだけ叩き込め!」
「よろしいのですか?イングランドの港への補給拠点攻撃が滞ります!それに敵戦闘機に迎撃されて落とされるのでは?」

空軍の参謀の一人が諫める。
何人かの参謀は同意するように頷き、別の参謀達はその諫言に反対しようと口を開きかけた。
だがその前にグライム元帥は隻眼で強く彼を見据え、強い口調で言い切った。

「兵站妨害は大事だが、上陸阻止できなければ破滅的なことになる。敵は一点突破を図っている。ここを先途と今まで以上に集中して押し寄せているから、とにかく叩き込めば何かしらの敵に当たるだろう。直撃できずとも水中爆発で舟艇をひっくり返すくらいはできる。敵戦闘機がV1を迎撃してくるなら、それならそれで空戦中の味方戦闘機の手助けにはなる。よいから振り向けたまえ!」
「はっ!」

陸軍所管でヒトラーの命令ですでに海岸攻撃に投入されているV2ミサイルと違い、空軍所管のV1ミサイルはノルマンディ上陸が始まってからも英本土南部の港への攻撃を続けていた。敵上陸部隊への補給妨害が目的だ。
グライムはそれも転用しろと言っていた。
命じられた士官が、あちこちの発射部隊にその命令を伝達していた。
発射部隊の目標変更は迅速だった。
この状況を想定し、各海岸への照準も事前に行われていたからだ。
少しずつユタ海岸の防壁が切り崩されつつある中で、パルスジェットエンジン独特の断続的な轟音が砲声に交じって聞こえ始めた。

「いかん!こちらキャッチャー1!眼下にバズボム(ぶんぶん爆弾の意味。特徴的なエンジン音からつけられた渾名)多数発見!これより迎撃する!キャッチャー全機、続け!」
「はい!」

ある米軍戦闘機隊長はV1の集団を見て、急遽迎撃に向かった。P-47の一団だ。
しかしそれを逃がすドイツ戦闘機隊ではない。事態に気付いた者や、V1の護衛を新たに命じられた部隊が立ちはだかる。

「このまま先にバズボムを一撃する!射撃したらすぐ回避しろ!爆発したら巻き込まれるぞ!」
「キャッチャー4よりキャッチャー1!右後方に敵機!」
「ベイツがやられた!トム、機首を上げるな!ダイブしろ!」
「隊長!敵機が多すぎます!ドゥードゥルバグ(同じくそのエンジン音からつけられた、V1の渾名)を攻撃する余裕がありません!」

V1の弾頭は850sのアマトール爆薬だ。装甲貫徹力は乏しいが、上陸作戦準備の妨害の為イギリス南部の港町へ放たれたものは、何もない水上や空き地に落ちる外れ弾も多く、迎撃されてしまうものもあった。

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