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太平洋の荒波
その他リレー小説 - 戦争

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太平洋の荒波 153

同時刻、独艦隊出撃の報せを受けた連合国海軍−−というより米海軍−−は、主立った水上戦闘艦に集合命令を出していた。
アイオワ級戦艦、アラスカ級戦闘巡洋艦、ボルティモア級重巡、ブルックリン級大型軽巡などよりなる戦闘艦艇群が、独艦隊出現に備えて定められていた集合地点を目指していた。
ニューメキシコ級戦艦などの旧式戦艦については鈍足であることを理由に海岸砲撃の継続を命じられていた。

空母レイク・シャンプレインやボクサーなどのエセックス級を基幹とする高速空母部隊も、上陸支援の護衛空母群と別れ、決戦海面を指向する進路を取り、さらに多数の偵察機を発進させる。
さらにその後、飛行甲板上には期待の新鋭機、F8Fベアキャット艦上戦闘機やAD1スカイレイダー艦上攻撃機が並び始めた。

その間にも、上陸海岸では地獄の死闘が続く。
エレクトロ・ボートやヴァルター・ボート部隊が本格的に船団にも牙をむいていて、対潜艦艇や対潜機の迎撃網をかいくぐっては誘導魚雷や酸素魚雷を撃ち込んでゆく。
多くの兵士が上陸前に海に投げ出され、投げ出されただけ周囲の艦船は救助に手を取られる。
そこにドイツ軍の戦闘爆撃機などが襲ったりもするので、海は混乱を混乱で上塗りする混沌状態と化していた。
アイゼンハワー達、米軍の将軍たちも混乱の収拾に忙しく、海軍からは敵艦隊出現の報告も届けられていたが、上陸兵たちを撤退させる事すらままならぬ(といって政治的にも軍事的にもまだ今のうちに退くわけにもいかないのだが)状況であった。


アードラーホルストに設けられた総統大本営では、ヒトラーがノルマンディーの攻防の模様を固唾をのんで見守っていた。

「海岸上空の防衛はなかなか上手くいっているようだな、グライム」
「はっ!我が空軍は味方上空の援護と戦術支援であれば、問題なくこなして御覧に入れます」

顔の左半分に火傷の痕を残し、眼帯をした空軍元帥ロベルト・フォン・グライムに、ヒトラーは上機嫌で語りかけていた。
ところで、グライムの大怪我の痕は、実は怪我の功名の証だったりする。
ゲーリングが薬物の過剰摂取で急死した後、後任に任命されたのが彼なのだが、着任すべくベルリンへ飛んだ折の着陸事故で重傷を負った。
驚いたヒトラーが侍医のテオドール・モレルを差し向けたのだが、彼の治療ミスでグライムは危うく死にかけ、共に彼の治療を受けた副官は助からなかった。
この事からヒトラーはモレルの治療に疑問を持ち始めた。
かねてからモレルの処方に疑問を持ち、わざと彼の薬を服用してみた侍医団のギーシンクやブラントは日頃ヒトラーが訴える症状が出たことや、結局モレルに代わりグライムの治療をした彼らの告発もあり、紆余曲折あったもののモレルが解任されたのだ。
その後しばらく離脱症状などの不調はあったが、ブラントら侍医団の治療に従ったヒトラーはむしろ変な不調を起こしにくくなり、却って落ち着いて戦争指導できるようになっていた。
往年の政治的な冴えを取り戻しつつあった彼は、この時あえて軍事的な事には深入りを避け、空はグライムに、陸はルントシュテットとロンメルに任せて、じっと見守っていた。
彼がこの戦闘が始まってから直接指示を出したのは、橋頭堡破壊や敵船団の混乱を狙い、命中率の低さは承知でV2ミサイルを撃ち込ませた事ぐらいだ。
自由フランス海軍の戦艦「リシュシュー」を誘導爆弾で撃沈した知らせが入った時には、ヒトラーも士官達も沸いたし、ロンメルの素早い指示で、沿岸防衛線に穴が開きそうになっても装甲部隊等が急行してすぐに塞ぎにかかる。
総統大本営は見事に機能し、多くの士官達が各地からの報告と指示に対処している姿を見ていたヒトラーだったがこうも思った。
(しかし、ただ見ているというのも、面倒なものだな。何かしら口を出そうとしてしまう)

そう思いヒトラーは、隣室へ一度下がった。
シュペーア、ゲッベルス、リッベントロップら政府高官が待っており、この戦いに勝った後の和平の方策を検討していた。

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