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太平洋の荒波
その他リレー小説 - 戦争

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太平洋の荒波 133

だが水上戦闘艦艇のような海戦用の本格的な照準装置も無くては十分な命中精度は得られない。
伊吹も島風級も対空機関砲などでこの強引な反撃に応戦し、砲や兵員を殺傷して黙らせる。
彼らは結局は船ごと沈むこととなった。
救命ボートで脱出した敵兵にも容赦なく対空機銃や機関砲が掃射してボートごと殺滅してゆく。
日本艦隊には、彼らをアフリカ大陸の英軍に合流させるつもりなど全く無かったのだ。


「終わったな・・・・。」
伊吹の艦長は自分達が現出した惨劇の跡を見て呟いた。
手当たり次第に攻撃して、多少被弾したものの輸送船を文字通り全滅させた襲撃部隊。
洋上には木片やら敵兵やらがいろいろ浮かび、燃えながら沈む船、船が沈む時の渦に巻き込まれて死ぬ英兵。
流石に、数個師団はいたと思われる敵部隊を空襲と合わせて洋上殲滅した後で敵兵まで救助する余裕は無く、伊吹と駆逐隊は本隊へと合流したのだった。
そして、英軍の受難はまだ終わったわけではなかった。
機動部隊と上陸部隊のまさに悲鳴と言っていい緊急信を受信した前進部隊―旧式戦艦部隊―に襲い掛かる者があったのだ。
それは、日独伊3国の潜水艦部隊であった。
スエズ運河経由でやってきたエレクトロ・ボートや、イタリア海軍においても戦艦部隊などに比べて遥かに勇敢な潜水艦隊、そして日本海軍の伊号潜や呂号潜。
いずれも酸素魚雷を帯びている。
中には日本初の実用水中高速潜水艦、伊201級も加わっていた。
呼び集められた枢軸軍潜水艦部隊は、外周の駆逐艦から順に1隻、また1隻と狩りたててゆく。
英駆逐艦隊もヘッジホッグなどで激しく抵抗するが、エレクトロ・ボートなどの水中機動性の高い潜水艦の多くはこれを回避し、護衛部隊に破滅的な打撃を与えてゆく。
水柱が1本立つたびに、1隻の艦が波間に消えてゆく。
そして枢軸軍の潜水艦隊は、中心にいた旧式戦艦たちにまでその牙をむいた。
すばしっこい駆逐艦隊を数で圧倒した彼らの前には、旧式戦艦部隊など演習標的同然であった。


――――


「そうか・・・・全滅したのか・・・・・・。」
英国首都、ロンドン。
スエズ奪還部隊の敗報を聞いた首相チャーチルは、その一言だけを絞り出す様に言った。
そのままうなだれて椅子に座り込む。
しばらく何も語らなかったが、やがて言った。
「イーデン外相を呼んでくれ。」

それは、英国が継戦意欲を失った瞬間だった。


1945年7月2日。英国は、枢軸国との停戦に合意した。

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